言論と報道の自由は国際的に認められた普遍的な価値である。それを弾圧する判決は許されず、認められるものではない。

 香港の高裁に当たる高等法院が、香港国家安全維持法(国安法)違反罪などに問われた民主派香港紙、蘋果(ひんか)日報の創業者、黎智英氏に有罪判決を言い渡した。

 黎氏は香港民主化運動の象徴的な存在だ。蘋果日報の評論記事や米政治家との面談を通じて中国、香港への制裁を呼びかけたとして、2020年に国安法の「外国勢力との結託による国家安全危害共謀」の罪などで起訴された。

 昨年11月の公判では「(外国の)外交政策に影響を及ぼそうとしたことはない」と、国安法違反罪の核心部分を否定するなど、無罪を主張して徹底抗戦していた。

 しかし判決は「国家の安全を損なうために蘋果日報の幹部らと共謀したことは議論の余地がない」と結論付けた。

 権力を監視する役割を持つメディアが、外国の要人と接触したり、政府について批判的に報じたりすることは、あって当然だ。それを違法とするのは、法律が悪いと言わざるを得ない。

 言論と報道の自由を抑圧すれば、民意が正確に把握されなくなり、市民の自由や人権がないがしろにされる恐れがあるからだ。

 問題は裁判の在り方にもある。香港は重大な刑事事件などは市民が参加する陪審制を取るが、国安法が絡む事件は、香港政府トップの李家超行政長官が指名した裁判官のみが審理し、判決を下す。

 李氏は、黎氏の有罪判決を受け「人権や自由の名を借りて公然と国や同胞を傷付けることは許されない」と述べた。民主派やメディアへの見せしめであることを示唆する発言と言っていい。

 蘋果日報は廃刊になったものの、国安法に反対するなど民主化運動で重要な役割を果たした。強い発信力を持つ黎氏は、国安法成立を主導した中国の習近平指導部から危険人物と見なされていた。

 判決を「いかに国安法が好ましくない発言をした人物に対する武器として使われてきたかという完璧な例だ」とした黎氏の息子の批判は、核心を突いている。

 香港では今月、民主派の代表的政党である民主党が解散を正式決定し、民主派政党が消滅した。

 自由な報道や民主の火が消えた影響は深刻だ。

 例えば11月下旬に香港北部で160人が亡くなった火災では、政府が被害者のリストを提供しなかった。責任を逃れようとする政府の思惑が透けるが、国安法の下では政府を直接的に批判する報道が減り、追及が弱まっている。

 香港の自由を守るために、国際社会は関心を寄せ続けたい。黎氏釈放に言及し、関心を示していたトランプ米大統領をはじめ、各国首脳の働き掛けが不可欠だ。