なお多くの県民が原発再稼働に不安を抱えているのに、その思いに応えたとは言えない。結論ありきで知事判断を追認したことは、県議会への信頼に禍根を残すものだろう。

 本県が長年向き合ってきた重要課題でありながら、県議会としての明確な意思が示されないまま、結論に至ったことも遺憾である。県民を代表する議会としての気概が見えない。

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、県議会は22日、12月定例会最終日の本会議で、安全・防災対策に関する広報費などを盛り込んだ2025年度一般会計補正予算案を、賛成多数で可決した。

 ◆手法の適切性に疑問

 再稼働を容認すると判断した花角英世知事を信任する付帯決議案も、自民党県議団などの賛成多数で可決した。

 付帯決議案は事実上、再稼働を容認した知事の判断についての是非を問うものだ。

 知事は自らの判断について県民に「信を問う」としていたが、再稼働容認を表明すると、進退を県議会に委ねるとした。

 県議会は、県政与党で国政では原発政策を推進する立場の自民が過半数を占める。再稼働を容認した知事の信任を諮れば、可決は明らかだった。

 先の9月定例会で、自民が中心となって県議会での判断を促す決議が可決されていたことも、知事が県議会に信任を求める決め手になったに違いない。

 ただ、県議会に判断を委ねた手法の適切性には疑問が残る。

 首長と議会はどちらも住民の直接選挙によって選ばれる。首長と議会の間が信任関係にないことは、地方自治や政治学の専門家が指摘している。

 その論を踏まえれば、知事が信を問うべきなのは県議会ではなく、県民ということになる。来年の知事選、もしくは県民投票で信を問うことが理にかなう対応だったと言えるだろう。

 柏崎刈羽原発は12年に全基が停止した後、テロ対策上の不備などの不祥事が相次ぎ、原子力規制委員会が東電に事実上の運転禁止命令を出すなど、複雑な経過をたどった。

 この間、原発事故を起こした当事者で県民の信頼感が薄い東電に、県議会は与野党問わず厳しい目を向けてきた。

 しかし、最終局面の12月定例会で、再稼働の是非を問う議論が尽くされたとは言い難い。

 委員会審議では、自民県議から、10年程度を要するという避難道路の整備に対し、あまりに長いと指摘する声が上がった。

 別の自民県議は「国は(再稼働が)決まってしまえば緊迫度がなくなる」とし、県が国や東電を監視し、避難道路整備を着実に進める必要性に触れた。

 県政与党の自民も環境整備がまだ不十分なことを認識していると言えるだろう。

 県民意識調査では「再稼働の条件が現状で整っている」との問いに「そうは思わない」との答えは「どちらかといえば」を含め計60%に上っていた。

 県議会が県民の代表としてそうした不安を受け止めるのならば、知事への信任を諮る前に、多様な住民の意思を集約しながら、丁寧に合意形成を図るという議会の本来の役割を果たすべきではなかったか。

 ◆チェック機能果たせ

 原発再稼働問題は国が進めるエネルギー政策の一環であり、本来なら国が前面に出て地元に理解を求めるべきだが、再稼働の是非に関わる判断は、常に地元に委ねられてきた。

 再稼働を容認した知事の判断と県議会の結論に、自民は「長い間、原発再稼働の問題に取り組み、熟議や議論が尽くされた結果だ」と評価する。

 一方、野党会派は「シナリオ通りで県民不在の議論」、「知事は妥当性のない、理屈にならない説明を繰り返すばかりだった」と不満を漏らす。

 ただ、再稼働した全国の他の原発では、県議会が決定してから知事が同意するのが一般的で、本県議会の順番は異例だ。

 知事の判断を追認し、県議会として再稼働の是非を明示しなかったことは、責任を放棄するものでもあると、県議会は重く受け止めてもらいたい。

 知事は23日に国に再稼働の容認を伝え、避難道路の迅速な整備や東電の信頼性確保など7項目を求めるとしている。

 再稼働を容認した責任は県議会にもある。県民の不安払拭に、県議会は一層、チェック機能を働かせなくてはならない。