戦後築いてきた平和国家の礎を壊しかねない動きであり、断じて許容できない。周辺国の反発をあおり、安全保障環境が一層厳しくなる恐れもある。
高市早苗首相が国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に伴い、非核三原則の見直しを検討している。既に自民党が議論を始め、来年4月中に提言をまとめる。政府はこれを受け来年末までに改定する方向という。
非核三原則は、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」とする日本の基本的な核政策だ。
1967年に当時の佐藤栄作首相が国会で表明した後、71年の衆院本会議で三原則順守を盛り込んだ決議を採択した。
それを皮切りに、国会での決議を積み重ね国是とされてきた。わが国の平和主義を象徴する重みのある政策である。一内閣の意向で簡単に変えていいものではない。
三原則見直しへ動く中、高市政権で安保政策を担当する官邸筋が、現実的でないとの見方を示しつつ「核を持つべきだと思っている」と、オフレコを前提とした取材で述べたことには驚いた。
核拡散防止条約(NPT)が認める核兵器保有国は米中ロ英仏5カ国である。官邸筋の発言は、NPTから逸脱することは明白だ。
野党だけでなく、自民党内でさえも更迭を求める声が上がったことは当然といえる。
非核三原則の見直しは高市首相の持論であり、官邸筋は核を巡る議論を喚起するためにあえて発言し、世論の反応をうかがっている可能性がある。
首相は就任前に「持ち込ませず」について、「現実的ではない」と主張していた。日本は米国の核抑止力に頼っており、その実効性が骨抜きになる可能性があるとの理由からだ。
背景には、日本周辺の核を巡る環境の悪化がある。中国の核弾頭保有数は2030年までに千発を超えると指摘される。北朝鮮も核・ミサイル開発を続けている。
しかし、米の核抑止力は米本土配備の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの長距離射程が中心で、日本に核を持ち込む必要はない。
台湾有事が存立危機事態になり得るとした首相の国会答弁は、中国の猛反発を招いた。
三原則見直しは日中関係など、東アジアの緊張を一段と高めかねない。慎重な議論を求めたい。
昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会は「悪魔の道具を使って、国を守ろうと考えているのか」と非難する。
核の脅威が高まっているからこそ、核のない世界の実現へ向け国際社会でイニシアチブを取ることが、唯一の戦争被爆国としての日本の役割である。政府は強く認識してもらいたい。
