信頼性がまた傷ついてしまった。日本の宇宙開発にとっての試練といえる。立て直しへ徹底的な原因究明が欠かせない。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、H3ロケット8号機を鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げたが、搭載した衛星を予定の軌道に投入できず失敗した。

 日本版の衛星利用測位システム(GPS)を構成する準天頂衛星「みちびき5号機」の投入を目指していた。

 みちびきの信号は、現在位置の把握を可能にするシステムに使われる。2018年に4機体制の運用を始め、カーナビやドローン、農業など広く活用されている。

 4機では一部の衛星が日本から見えない時間帯があり、米国の信号にも頼っている。有事などで米国のGPS利用を制限されれば測位精度が落ち、社会活動が混乱する恐れがある。

 他国に頼らずに位置情報を提供できる7機体制への増強を図る途中での失敗となった。H3ロケットは今後20年、日本の宇宙輸送の主軸になることを期待されているだけに手痛い打撃である。

 H3は23年3月に打ち上げた1号機も失敗した。その後は5回続けて成功していた。油断はなかったか。あるいは欧米や中国との競争の中での焦りはなかったか。

 また一から立て直さなければならない。失敗の原因を突き止めるには「数カ月必要」との見方もあり、日本の宇宙開発の大幅な遅れを懸念する。

 政府は宇宙基本計画の工程表を決めたばかりだが、見直さざるを得ないだろう。

 原因を特定するまでは、自国だけで人工衛星を宇宙へ輸送できない。国際宇宙ステーションへの物資輸送など国際協力にも影響を与えかねない。

 特に火星の衛星フォボスから試料を持ち帰る探査機「MMX」の打ち上げへの影響が心配される。

 地球との距離が変動するため打ち上げの適切な時期は限られており、もしタイミングを逃せば、数年単位で遅れる可能性がある。

 H3は、需要が高まる衛星打ち上げビジネスへの本格参入を目標にする。日本が競争力を得るには低価格化が鍵になる。

 来年には低コスト型の試験機デビューを予定していたが、打ち上げは見通せなくなった。

 今回は、飛行中に2段目エンジンが予定より早く停止した。

 このミスだけでなく、機体制御用の機器の異常で打ち上げが延期になっていた。発射直前に地上設備の不具合でカウントダウンを中止する場面もあった。

 飛行データに限らず、全体を点検する必要がありそうだ。

 宇宙開発は科学技術力を象徴するものだ。トラブルから学び、日本の信頼回復への歩みを着実に進めてもらいたい。