家族の多様化が進み、社会の意識が大きく変化している。にもかかわらず、いまだに時代に合った制度を構築できないのは、政治の怠慢だと言うしかない。

 与野党は、今国会の焦点である選択的夫婦別姓制度の導入に向けた議論を重ねるべきだ。

 制度を巡り、自民党は独自法案の今国会提出を見送る方向で調整に入った。

 党内に推進派と慎重派の両論があるのに加え、夫婦別姓の対案として検討中の「旧姓使用拡大案」の制度設計も時間を要するため、拙速に意見を集約するべきではないと判断したようだ。

 選択的夫婦別姓は、1996年に法相の諮問機関である法制審議会が導入を盛り込んだ民法改正案を答申したものの、30年近くもたなざらしになっている。昨年は経団連が早期導入を求め提言した。

 法案提出の見送りは、責任与党としてのあり方が問われる。

 石破茂首相は昨年の自民党総裁選では、別姓制度に理解を示していた。慎重派への配慮ばかりでなく、リーダーシップを発揮して党内議論をまとめてもらいたい。

 気になるのは、自民が旧姓使用の拡大を検討していることだ。これでは根本的な解決にならない。

 別姓を求める人の中には、改姓に伴ってアイデンティティーが喪失する「個人の尊厳の問題」と捉える声もあるからだ。別姓を認めない法規定は、「個人の尊重」を定める憲法13条などに違反すると訴える裁判も起きている。

 反対派には別姓制度導入で「親と子の姓が異なり家族の一体感が損なわれる」との主張もある。

 しかし、三原じゅん子こども政策担当相は参院予算委員会で、制度を導入している国で家族の一体感が日本より希薄だとする情報には「接していない」と答弁した。

 国会は親と子で姓が異なる事実婚の家庭などから、一体感や姓が異なる不便さの有無について聴取するなど、実態を踏まえた上で議論するべきだろう。

 立憲民主党は、制度導入に向けた民法改正案を衆院に単独提出した。夫婦は婚姻時に同姓か別姓を選び、別姓の場合は併せて子どもの姓を決め、きょうだいの姓は同一にするとしている。

 共産党は立民案に賛同するとした。一方、日本維新の会と国民民主党はそれぞれ独自法案を提出する構えで、野党間の足並みもそろっていない。

 維新は「夫婦・親子同氏」の原則を維持し旧姓使用に法的効力を与える法案要綱をまとめた。

 国民民主は婚姻時に戸籍筆頭者を定め、子どもは自動的に筆頭者と同じ姓を名乗る案を軸に検討を進めている。

 国会の会期末まで1カ月余りと時間は少ない。さまざまな価値観に対応できる社会になるよう、議論を急がねばならない。