政治に都合よく従わせようとする新法ではないか。自由であるべき学問をゆがめることは断じて許されない。

 日本学術会議を「国の特別機関」から特殊法人に移行させる新法が成立した。参院本会議で自民、公明、日本維新の会の3党などの賛成で可決した。2026年10月に移行する。

 法案審議では、政府から間接的に人事や活動などで介入を受ける懸念が指摘されたが、政府は修正に応じず、「独立性を尊重」「政府は活動を萎縮させない」との事項は付帯決議にとどまった。

 これでは懸念が拭えない。国会周辺で連日、学者らが座り込みなどを実施したのは政府への強い抗議の表れだ。

 学術会議は、科学的な知見に基づいて政府に意見することができるよう、独立性が保たれた組織でなければならない。

 政府は、国から切り離すことで独立性が高まると主張してきた。首相による会員任命もやめる。

 しかし、法人化後も首相任命の監事や評価委員を置き、業務や財務の監査をする。

 新会員は総会の決議で選任するが、発足時は特例として、首相指名の有識者が委員会を設置する形で候補者選考に関与する。

 20年に菅義偉首相が新会員候補の任命を拒否したことをきっかけに法人化の議論が始まったことを踏まえれば、政府に不信感を抱くのはもっともだ。任命拒否の理由は、いまだに説明されていない。

 新法により財政面の課題も生じる。現在は運営費などに充てるため政府が年10億円前後を出しているが、法人化後は「必要な金額を補助できる」との規定に変わる。安定的な財政基盤を保てるかは見通せない。

 民間から寄付金を受けることは可能になる。公益を活動の本旨とする学術会議は、資金確保のために外部に迎合することがないよう留意してもらいたい。

 学術と軍事分野との距離には警戒が必要だ。

 近年、防衛省による大学への助成が拡大している。研究費獲得の苦戦が背景に挙げられる。

 軍事技術にも応用可能な研究を支援する防衛省の「安全保障技術研究推進制度」の助成は、15年度からの9年間で22大学、計約27億3千万円に上ることが共同通信の集計で分かっている。15年度の計約8千万円から23年度は計約6億2千万円に増えた。

 学術会議は、1950年以降、戦争目的の研究をしないとの声明を2度出した。防衛省の制度を問題視する声明も2017年にまとめている。

 戦争協力への反省から出発した学術会議としては当然である。

 政府に不都合なことも学術会議が指摘できるよう環境を整備することが政治の役割であるはずだ。