ようやく合意にこぎ着けた。相互利益につなげてもらいたい。

 だが、米国政府が介入する余地が残ったままだ。経営の独立性をいかに担保するか注目される。

 日本製鉄は、米鉄鋼大手USスチールの買収計画をトランプ米大統領が承認したと発表した。

 USスチールの株式を100%取得し、完全子会社化する。買収後の粗鋼生産量は世界4位で変わらないものの、3位の中国企業に迫る規模となる。

 2023年の買収計画公表から1年半を経て、米国時間の18日にも手続きが完了する見通しだ。

 こじれていた交渉が決着することは歓迎できる。

 ただ、その内容には気がかりな点がある。

 日鉄は承認に際し、米政府と国家安全保障協定を締結した。

 詳細は明らかにされていないが、協定にはUSスチールの取締役の過半数を米国籍とすることや、生産の維持など、日鉄がこれまでに示した条件が盛り込まれたとみられている。

 注意したいのは、米国が「黄金株」という特殊な株を所有し、USスチールを巡る経営の重要事項の決議に拒否権を持つことだ。

 米政府の強い関与で、企業活動が阻害されることはないのか。権限の乱用はあってはならない。

 巨額投資の回収も課題だ。日鉄はUSスチールに28年までに約110億ドル(約1兆6千億円)の投資を実施することを表明した。

 ディール(取引)を重視するトランプ氏との交渉で、当初計画の10倍近い額に膨らんだ。

 この投資とは別に、買収に約141億ドルがかかる。

 米国の旺盛な鋼材需要を踏まえ、日鉄の関係者は「心配してもらわなくていい」と強気だが、一企業が抱える負担としては、その大きさに驚かざるを得ない。

 日鉄は電気自動車(EV)用などの高級鋼材で国際競争力を持っている。USスチールへ円滑な技術導入を図ってシェアを伸ばすなど、早期に利益回収の道筋をつけてもらいたい。

 今回の買収は、米国を象徴する企業が相手だった上、大統領選の時期とも重なったことで、企業活動が政治に振り回された。

 計画公表当時のバイデン大統領は、安全保障上の懸念を理由に買収禁止命令を出した。

 大統領に返り咲いたトランプ氏は「買収ではなく投資」とし、米国に有利な条件を強く迫った。

 これを前例に、過度な投資要求がのしかかってこないか心配される。このような手法が繰り返されれば、政治リスクを嫌った日本企業が対米投資を控える事態も考えられよう。

 経済の発展には、企業が自由に意思決定をできる環境が欠かせない。政治が介入し混乱を招くことは、厳に慎まなければならない。