おびただしいほのかな光の舞が、しんとした非日常の空間をつくりだしていた。かつては県内の至る所で、この時季のありふれた光景だっただろうか。長岡市の雪国植物園で始まった「ホタルの夕べ」の会場で、想像を膨らませた

▼この日は午後8時を過ぎたころ、小川に沿って約400匹が確認された。「出始めの今頃としては、ここ数年で多い方だ」と大原久治園長が教えてくれた

▼ホタルの発光は〈オスとメスが出会うための大切な「ことば」なのです〉(大場信義「ホタルの木」)。人類が多言語であるように、ホタルも種によって光り方が違う。同じ種でも方言があるらしく、一般的に西日本のゲンジボタルは2秒に1回ほど光り、東日本では約4秒間隔で発光するとされる

▼オスのゲンジボタルによる集団同時明滅はとりわけ神秘的なメッセージと言える。小集団がシンクロを始め、次第に広範囲な大集団が同じ間合いで光りだす。一説ではオスであることのアピールだという。異なる光り方をするメスは葉の上などでオスの接近を待つ

▼オスは共同戦線を張るように見えて、みなライバルである。成虫として生存できる10日前後の限られた時間に、子孫を残すため懸命に光を放つ。効率的に出会うために集団で行動し、同時明滅という高度な技まで駆使する

▼もし成虫として生きられる時間がもっと長くてゆったりしていれば、こんな感動的な現象は起こりえなかったかもしれない。そう思うと、自然界の摂理に感謝したくなる。

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