法の支配という価値観を共有する民主主義国のリーダーたちが、結束と力強いメッセージを示せなかったことは残念だ。会議の存在意義が問われる事態である。

 カナダ西部カナナスキスで開かれていた先進7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕した。

 戦禍が続き、経済の不透明感が増すなど国際社会は課題が山積している。にもかかわらず、ロシアによるウクライナ侵攻への対応で、米国と他の国との間に溝が残り、包括的な首脳宣言や首脳声明は見送られた。

 宣言の見送りは、ロシアがG8から外れて現在のG7になった2014年以降、初めてだという。

 ウクライナ情勢に関する声明も、米国がロシア非難の強い文言に反発し、出せなかった。ロシアを増長させないか心配だ。

 G7は、イスラエルとイランの戦闘が続く中東情勢に関しては、共同声明を発表した。

 問題は、その内容である。議長国のカナダは当初、イスラエルとイラン双方に自制を求める声明の採択を目指した。しかし、最終的には「イランの核兵器保有を容認しない」と非難する一方、イスラエルの自衛権は支持した。

 親イスラエルのトランプ米大統領に大幅に譲歩したとみられる。露骨にイスラエルに寄った声明で、国際社会の理解を得られるのか。首をかしげざるを得ない。

 トランプ氏は中東情勢の緊迫化を理由に、途中で会議を離脱し、帰国した。

 早期停戦に向けて、米国の役割が期待されているのは間違いない。その一方で、多国間交渉を軽視する米国の姿勢が改めて浮き彫りになった。

 サミットは1975年に始まり、半世紀にわたり、主要国のリーダーが年1回、国際情勢を話し合ってきた。実効性のある機会としてどのように継続するか、知恵を絞らなければならないだろう。

 今回のG7では、米国の高関税を巡る石破茂首相とトランプ氏との首脳会談も焦点だった。結局、合意には至らず、閣僚による協議を続けることで一致した。

 石破首相が「大きな国益」とする自動車への追加関税を巡り、意見が対立して米側から譲歩を引き出せなかったためである。

 懸念されるのは、トップ会談という大きな節目を逃し、さらに決着が遠のいたことだ。

 米国は中東情勢のほか、中国との貿易協議や不法移民摘発を巡る抗議デモといった難題に直面している。これまで通り頻繁に日米交渉を行えるかは見通せない。

 相互関税の上乗せ分14%は7月9日まで一時停止されているが、自動車には4月、25%の追加関税が課された。高関税は既に日本経済へ悪影響を及ぼしつつある。

 早期の打開に向け、日本政府には戦略の練り直しが求められる。