再稼働議論の前提が変わる方針転換である。それが地元の理解を得ないまま進められた。東京電力の姿勢に疑問を抱く。

 東電柏崎刈羽原発の稲垣武之所長は定例会見で、これまで準備を先行させてきた7号機の再稼働を先送りし、6号機の再稼働準備を優先すると発表した。

 順番を入れ替える背景には、新規制基準で義務づけられたテロ対策施設の設置遅れがある。

 設置は原発本体の工事計画が審査に合格してから5年間の猶予があり、7号機は今年10月にその期限を迎える。10月までであれば施設ができていなくても再稼働できるが、再稼働に対する地元同意は見通せない状況だ。

 未完成のまま猶予期間を過ぎると再稼働はできない。7号機のテロ対策施設は完成が予定より大幅に遅れる見通しで、早期の再稼働は困難だ。一方の6号機は2029年9月まで猶予がある。

 しかし、必要なテロ対策施設を設置できていないのは6号機も同じである。単に猶予期限が先まであるに過ぎない。

 7号機が駄目だから6号機を先にという進め方は、ご都合主義との批判を免れない。

 6号機は7号機と型式、出力など構造面で共通するとはいえ、重大事故の進展を防ぐ機器の仕様などで差異もある。

 21年には6号機の原子炉建屋に直結する大物搬入建屋のくいが、07年の中越沖地震で破損していたことも判明した。消火配管の不適切工事が多く見つかったほか、非常用ディーゼル発電機のトラブルも起きている。

 6号機優先の方針を受け、柏崎市の桜井雅浩市長が「これまではあくまで7号機の再稼働を前提で話してきた。自動的に『はい、どうぞ』とはならない」と述べた。もっともな反応だろう。

 不可解なのは、東電が7号機に装塡(そうてん)済みの核燃料を「(保管用の)燃料プールに戻すことを検討したい」との意向を示した点だ。

 東電はこれまで、装塡後の安全性のリスクは、燃料を保管している間のリスクと大差ないと説明してきた。差がないのであれば、なぜ保管用プールに戻すのか。分かりやすい説明を求めたい。

 柏崎刈羽原発を巡っては、首相を議長とする政府の原子力防災会議が27日、重大事故に備えた関係自治体の住民避難計画を了承した。29日からは県が再稼働問題に関する公聴会を順次開く。

 6号機に関する十分な説明がないにもかかわらず、段取りが進んでいくことに不安を感じる県民もいるはずだ。

 東電の小早川智明社長は26日の株主総会で、柏崎刈羽原発の早期再稼働に向けた取り組みを進める姿勢を改めて示した。

 まず、地元の懸念と向き合う努力を最優先にするべきだ。