政治を変えたい、その国民の意思が鮮明に表れた。衆院に続き、参院でも議席を大幅に減らしたことを、政権は重く受け止めねばならない。
参院選は20日投開票され、与党の自民、公明両党の獲得議席が改選66議席から大きく減る見通しとなった。
石破茂首相は20日夜、続投の意向を示した。「厳しい情勢を謙虚に、真摯(しんし)に受け止めなければならない」と述べたが、求心力の低下は必至で、政権運営の混迷は避けられない。
自民は昨年の衆院選、今年6月の東京都議選でも議席を減らしている。首相の責任問題に発展する可能性がある。
◆与党「ノー」が明らか
通常、参院選は政権の中間評価と位置付けられるが、今回は事実上の政権選択選挙となった。衆参両院で与党が大苦戦したのは、政権に対する「ノー」の表示と受け取れる。
根底には、出口の見えない物価高に苦しむ国民の強い不満があるだろう。
自民は1人2万円の現金給付を公約に盛り込んだものの、公示後に共同通信が行った電話世論調査では、首相の物価高対応を「十分だとは思わない」が9割近くを占めた。
有権者には一時しのぎの「ばらまき」と映ったはずだ。
公示前から自民議員の失言や妄言が続いたことも、与党のおごりを感じさせた。
選挙の応援演説で鶴保庸介参院予算委員長が「運のいいことに能登で地震があった」と発言し、その後委員長を辞任した。
5月には当時の江藤拓農相が「コメは買ったことがない」と述べ、消費者や生産者の怒りを買った。沖縄戦の慰霊碑を巡る展示説明を「歴史の書き換え」と主張した参院議員もいた。
いずれの発言も困難な立場に置かれた人への配慮を欠き、寄り添う姿勢が見えない。
自民派閥裏金事件の真相解明を進めず、企業・団体献金の改革も繰り返し先送りした。
こうした積み重ねが、現政権には国民の声が届かない、変革を期待できないと判断されたとしても不思議はない。
選択的夫婦別姓の法制化は党の姿勢を示せず、政権が国難と位置付ける米国との高関税交渉は打開できないままだ。
与党の議席減には、国民生活に直結する課題に結果を出せない政治への失望が透ける。国民の信頼が離れてしまっている。
新潟選挙区は立憲民主党現職の打越さく良(ら)氏が、自民新人の中村真衣氏、参政党新人の平井恵里子氏を制した。
◆野党も責任を果たせ
全国では野党第1党の立民が改選22議席から上積みを図る。
ただ、国民民主党や新興の参政が大きく議席を伸ばす一方、旧来の野党勢力は与党批判の受け皿になれず、既存政治への不信もうかがわせた。
衆参で野党勢力が過半数を超えた場合には、各党の連携次第で政権交代が可能になる。
野党は責任がより大きくなったことを自覚してほしい。
公約した消費税減税や社会保険料の引き下げなどを、各党がどう実現させるか注目したい。
社会保障と税は、所得を再分配し、支え合う社会の基盤となるものだ。だが社会保障制度が前提としてきた社会の姿は、急速な人口減少と少子高齢化で変わりつつある。
負担の在り方を含め、制度の基本構造を見直すべき時だ。野党も目指す社会像を明確にし、支え合いを維持できる社会の在り方を示してもらいたい。短期的な負担減だけでは困る。
今回の選挙戦では、外国人との共生の在り方が争点に急浮上した。その中で排他的な主張が広がったことには懸念がある。
交流サイト(SNS)では、「外国人への生活保護は違法」「外国人の犯罪が増えている」といった誤った情報や根拠が曖昧な投稿が出回った。
排外主義的な言論の広がりは、国民の不安感の高まりを感じさせるものだった。
しかし、曖昧な情報に基づいて差別や対立、分断が生まれる状況は望ましくない。
政治家は自らが不正確な情報を発信しないように、発言に責任を持たねばならない。
私たちには選挙後も引き続き、情報の真偽を確かめ、冷静に判断することが求められる。
民主主義が守られ、全ての人の基本的人権が保障される自由な社会であるように、これからも政治に目を向け続けたい。