歯切れの良い答弁は首相の持ち味だ。しかし日中関係を急速に悪化させた現実からは、もろ刃の剣であるとも言える。

 勇み足な答弁や、前のめりな姿勢にくぎを刺され、持論を封印する形となった。首相は引き続き、慎重に言葉を選んでもらいたい。

 国会は26日、高市早苗首相と野党の4代表による初めての党首討論を実施した。立憲民主、国民民主両党のほか、今国会前に連立を離脱した公明党、参院選で議席を増やした参政党が討論した。

 注目されたのは、台湾有事や非核三原則で歴代内閣が堅持してきた政府見解と、高市首相の発言に整合性が取れるかだ。

 台湾有事が集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」になり得るとし、日中関係の悪化を招いた首相の国会答弁については、立民の野田佳彦代表が追及した。

 同盟国の米国が台湾に関して曖昧戦略を取る中で、日本の具体的な対応を明らかにしたとして「国益を損なう。独断専行だったのではないか」と指摘した。

 首相は存立危機事態の認定について、「いかなる事態が該当するかは、実際に発生した事態の具体的な状況に即して、全ての情報を総合して判断する」とし、具体例には言及しなかった。

 歴代内閣も断言は避けており、日本の姿勢に変更はないことを強調する内容となった。

 野田氏の質問は、事実上の答弁撤回を迫ることで、事態の沈静化につなげる意図があるだろう。

 首相は「対話を通じて包括的な良い関係を構築し、国益を最大化するのが私の責任だ」と述べたが、現実は厳しい。対話の実現を模索しなくてはならない。

 公明の斉藤鉄夫代表は、非核三原則の見直しについて「唯一の戦争被爆国の日本が見直すようなことがあっては、核廃絶は夢のまた夢だ」と反対した。

 「平時に前のめりに見直すことはあってはならない」とけん制し、見直す場合は国会決議が必要だとしたのは、当然の主張だ。

 首相は非核三原則に対し、明示的に見直しを指示した事実はないと述べ、「現実的な対応も含めて総合的に検討したい」とした。

 どう検討するのか、過程を注意深く見ていく必要がある。

 一方、所得税が生じる「年収の壁」の引き上げを求めた国民民主の玉木雄一郎代表には「共に目的を達成していくということであれば大いに賛成する」とし、補正予算成立を視野に秋波を送った。

 参政の神谷宗幣代表が求めたスパイ防止法には「検討を開始し、速やかに法案を策定することを考えている」と同調した。

 少数与党の政権で野党の取り込みを図る狙いがあるのは分かる。だが個別の協議で結論を導いては政策に不足が生じかねない。国会での幅広い議論が不可欠だ。