人身取引は重大な人権侵害であり、徹底した捜査で実態を解明しなければならない。被害者の支援や再発防止にも取り組むべきだ。
東京の個室マッサージ店で12歳のタイ人少女を働かせたとして、経営者の男が労働基準法(最低年齢)違反の疑いで逮捕された。
警察によると、少女は6月下旬、母親に連れられて来日し、店で働くよう言われ、置き去りにされた。男性客に性的サービスをさせられていたという。
少女は店内で生活し、7月末までの約1カ月間で約60人の客の相手をした。売り上げ60万円超は店と母親側で分けたとみられる。
事件は9月、少女が「祖父母や妹に会いたい。中学校に通いたい」などと東京出入国在留管理局を訪れて助けを求め、発覚した。
少女は「私が働かないと家族が生活できないと思い、我慢するしかなかった」とも話したという。あまりに残酷だ。心中は察するに余りある。
少女は現在、安全な施設で保護されているという。関係機関には身体的にも、精神的にも十分なケアを行ってもらいたい。
母親は台湾で売春に関わったとして、現地の警察が拘束した。日本の警視庁は、みだらな行為をさせると知りながら少女を店に紹介したとして、児童福祉法違反容疑で逮捕状を取った。
母親を早急に日本に移送し、事件の全容を明らかにしてほしい。
懸念されるのは、背後にあっせん組織があるとみられることだ。国境をまたぐ人身取引を、母親が単独で行ったとは考えにくい。
日本とタイの警察は既に情報交換を進めるなど、連携して捜査している。被害の再発を防ぐには組織の排除が欠かせない。
人身取引は、売春や強制労働などの搾取を目的に、暴力や脅迫を使ったり、相手が弱い立場にあることを利用したりして身柄を引き渡すなどの行為をいう。
18歳未満は暴力などを受けていなくても、被害者と認められる。
日本政府の年次報告書によると、国内で昨年、保護された人身取引の被害者は66人で、うち外国籍は8人だった。18歳未満の児童は41人で、全員日本国籍だった。
被害者は近年、増加傾向にあり、多くが性的に搾取されていたとみられる。被害者数はあくまで政府が認定した人数であり、「氷山の一角」との指摘もある。
児童買春や児童ポルノの製造、販売といった人身取引との関連が疑われる事案は少なくない。
今回逮捕された経営者の男が被害者の少女を働かせたのは、客が来て利益を生むからである。客も厳しく処罰する必要がある。
児童に対する性的搾取は、国際的に大きな問題であり、関心が高まっている。
子どもを商品化する社会であってはならない。
