「共同開発」の名の下で、殺傷能力のある武器の輸出が加速していくことを憂慮する。日本製の武器が国際紛争で使用される事態は望ましくない。
日本とオーストラリアの両政府は、オーストラリア海軍の新型艦を巡り、日本が共同開発の最有力候補に選ばれたと発表した。
海上自衛隊の最新鋭護衛艦「FFM」(もがみ型)をベースに、11隻の建造を予定する。最大100億豪ドル(約9500億円)が見込まれ、価格交渉で合意に至れば、殺傷能力のある護衛艦の事実上の輸出が初めて決まる。
石破茂首相は、オーストラリアのアルバニージー首相と電話会談し、今回の決定について「心から歓迎する」と表明した。
安全保障協力の強化を目指す両国の思惑が一致した結果だろう。
オーストラリアにとっては、台湾有事が差し迫った課題で、米軍が台湾防衛に参戦する事態になれば、日米豪部隊の相互運用が鍵を握る。装備品供給や修理面で、日本の支援が期待されている。
しかし、武器輸出がなし崩し的に進めば、「平和国家」を掲げる日本の姿は変容しかねない。
日本は先の大戦の反省から、長年、武器輸出に慎重だったが、2014年に第2次安倍政権が「防衛装備移転三原則」を決定し、事実上の禁輸政策は転換された。
22年には岸田前政権が新たな国家安全保障戦略を策定し、装備品輸出の推進方針に踏み出した。
移転三原則は殺傷能力の高い武器の輸出を規制しており、護衛艦はそれに当たるが、共同開発・生産の目的なら移転が認められる。共同開発した完成品は、閣議決定で第三国への輸出もできる。
共同開発が規制の抜け穴になると指摘されるのはそのためだ。
23年に米国企業のライセンスに基づき日本で生産する地対空誘導弾パトリオットの米国への提供が決まり、24年には英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出が解禁されている。
数年の間に、輸出の動きが加速していることは気がかりだ。
輸出の制限緩和を求める与党内の動きも見過ごせない。
自民党安全保障調査会は今年6月にまとめた提言で、「救難」など非戦闘目的の「5類型」の装備品のみ輸出を認めるとした現在の制限を撤廃するよう主張した。
政府が中古の護衛艦を、既に判明していたフィリピンのほか、インドネシアとベトナムに輸出する案も浮上しているという。
移転三原則は輸出を認める条件に相手国の「適正な管理」を挙げるが、実態確認は容易ではない。
武器輸出の拡大には国会で十分審議し歯止めをかけるべきだ。
政府は、輸出した武器が国際紛争を助長する恐れがあることを自覚してもらいたい。日本は平和国家の旗を降ろすべきではない。