「ひらやすみ」という漫画がNHKでこの秋、実写ドラマ化される。原作は東京・阿佐ケ谷を舞台に、譲り受けた平屋の一軒家で暮らす29歳のフリーターを主人公とする。平凡でも温かい人のふれあいが心地よい物語だ

▼作者の真造(しんぞう)圭伍さんが平屋にどんなメッセージを込めたのかは読み取れない。ただ、とことん人柄がいい主人公が日々を丁寧に暮らす場として、年季の入った平屋住宅は妙にしっくりくる

▼国交省のデータによると、全国で昨年着工された居住用住宅に占める平屋の割合は、10年前の2倍以上に増えた。耐震性に優れ、室内の移動が楽。室温や湿度管理、メンテナンスのしやすさも人気の理由らしい

▼新潟市秋葉区で建築設計事務所を経営する神田陸さん(51)は、この10年ほどで手がけた住宅のほとんどが平屋造りだという。推奨しているわけではない。施主はついのすみかを意識する50代60代が中心で、要望を反映させるうちに結果的にそうなった

▼神田さんによると、日本では戦後復興期の要請もあり、住宅が標準化される傾向があった。今は「個性がないと生き抜けない時代になってきた」と業界を語る。その延長線上に「広い敷地がなければ一般的には2階建て」という観念にとらわれない需要があるとみる

▼大人数で同居する暮らしが減るなど、家族のあり方も関係している。漫画の「ひらやすみ」が注目を浴び、テレビドラマにもなる背景を、あれこれ考えてみる。最近、わが家の近所にも2軒の平屋が建った。

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