公述人からは再稼働への賛否にかかわらず、重大事故時の対応について不安や疑問が語られた。県には、これら一つ一つに、誠実に応える責任がある。

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に関する県の公聴会が全日程を終えた。6月から8月までの5回で合計87人から聞き取った。

 「条件付き賛成」とした20人を含め、公述人の約6割が再稼働に賛成の意思を示した。

 ただ、その割合について花角英世知事は、賛否の「傾向を探ったわけではない」としている。

 知事はかねて「条件付きの人が何に悩み、何が不安なのかを探る」としており、公聴会は役割を一定程度果たしたと言えるだろう。

 しかし、運営方法は客観性や透明性を欠き、疑問が残った。

 県は多くの応募者から公述人を選んだものの、選考基準を明らかにしなかった。

 さらに公聴会はオンラインでしか傍聴できなかった。

 公述人のプライバシーに配慮したためだが、氏名、姿を非公開とした人も多く、基本的な情報が得られなかったことは残念だ。

 一方、再稼働問題に対する具体的な意見が、ある程度、公になったという点では意義がある。

 公聴会を通じて浮かび上がったのは、賛成、条件付き賛成とした人も、何らかの不安や疑問を抱えているということだ。

 重大事故の際に住民は安全に避難できるのか。大雪時に避難道路の除雪作業を担う業者が被ばくする恐れをどう考えるのか。柏崎刈羽原発で発電した電気を使う首都圏のために、なぜ本県が一方的にリスクを負うのか。

 一部の避難路や、設置が義務付けられたテロ対策施設が未完成のまま再稼働議論が進むことへの疑問も相次いだ。「インフラが整った後の稼働が筋」との指摘だ。

 こうした意見を踏まえれば、再稼働に対し、県民の理解が深まっているとは到底言えない。

 県は3日、再稼働問題に関する県民意識調査の概要を発表した。知事は公聴会と意識調査で上がった県民の意見を自身の再稼働判断の材料にする考えだ。判断を下す時期は、意識調査の分析が示される10月末以降になるという。

 まず求められるのは、明らかになった意見を整理し、対応策を示すことだろう。不安や疑問が解消されなければ、県民が再稼働の是非を判断することは困難だ。

 政府と東電は、再稼働について地元の同意を得ようと前のめりな姿勢を見せている。政府は原発周辺自治体に対する財政支援の範囲拡大を、東電は地元への資金援助をそれぞれ打ち出した。

 再稼働をせかすかのような国や東電の動きは、公聴会で語られた県民の不安と相いれない。知事と県議会には県民の思いに向き合って熟議を尽くしてほしい。