混迷を極めた交渉にひと区切りが付いた。しかし、日本経済にはこれから本格的な影響が出てくる可能性がある。打撃を最小限にとどめるための対策が必要だ。
トランプ米大統領が、日本から輸入する自動車への関税を27・5%から15%に引き下げる大統領令に署名した。
日本への「相互関税」の特例措置の適用なども明記された。既存の関税率が15%未満の品目は一律15%となり、15%以上の場合はその税率が維持される。8月7日にさかのぼって適用する。
日米合意が実現に向かうことになり、日本企業は事業の先行きを見通しやすくなる。大きく前進したといえるだろう。合意通りに履行されなくてはならない。
4月に米政権との閣僚交渉が始まって以降、交渉筋は米国の理不尽な対応に振り回されてきた。
日本政府は7月に相互関税の負担軽減で合意したとしていたが、8月7日に新たな相互関税が発動された際には適用されず、日本が最重視する自動車関税を15%に下げる時期も明示されなかった。
今回、求めてきた自動車関税の引き下げがようやく明記され、基幹産業へのダメージが軽減されることは、一定の成果だ。
とはいえ、以前と比べると依然として高税率で、経済全般への悪影響は回避し難い。
石破茂首相は「経済、雇用の影響が極小化されることに万全を期したい」と述べた。
政府は景気の下振れリスクに目を配り、景気を失速させないために対策を講じてもらいたい。
大統領令は、合意した5500億ドル(約80兆円)に及ぶ対米投資について「米政府が選定する」としたほか、日本がコメの輸入拡大に取り組むことなども明記した。
見逃せないのは、対米投資の覚書に、日本側が資金拠出を中止した場合、米国は再び関税を引き上げると明記されていることだ。これでは、不採算などを理由に日本が撤退することは難しい。
米国の意向があまりにも強く反映され、不平等感が拭えない。日本政府は、対等な内容となるように改めて交渉すべきだろう。
世界全体では、米中間の関税交渉が妥結せず、半導体などの関税交渉で先行きが不透明なことも、不確実性として残されている。
自国第一主義を強める米国に対し、中国はインドやロシアなどと連携し、圧力をかけている。
一方米国では、トランプ政権が日本や世界各国に課した相互関税などを、米連邦高裁が大統領権限を逸脱し違法だと判断した。
政権は上訴したが、トランプ氏は連邦最高裁でも敗訴すれば「合意を解消しなくてはいけない」として最高裁をけん制している。
日本政府は、米側の姿勢は今後も変わり得ると認識し、適切な対応を続けていかねばならない。