やはり、続投には無理があった。衆参とも少数与党の難局にあって、ここまで党内の求心力を失ってしまっては、政治を前に進めるのは不可能だっただろう。石破茂首相が退陣を表明した

▼日米関税交渉に区切りがついての決断だと説明したが、自民党の総裁選前倒しが不可避な情勢となり、刀折れ矢尽きての退場ではなかったか。心に決めていた筋書きだとすれば、相当の役者である

▼「地位に恋々とするつもりはなかった」と言うが、無念は察するに余りある。党内野党と言われた立場から臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、5度目の挑戦で首相になった。結果的に安全保障や地方創生、防災の強化など、本当にやりたかったことはほとんどできなかった

▼党内融和と少数与党における対応で「石破らしさを失った」という吐露は本音だろう。ただ、その困難さは覚悟の上だったはず。政治家としての信念や政策がいくら立派だとしても、仲間を巻き込み、世論を動かし、形にしていく胆力がなければ、政治は実現しない

▼昨秋の首相就任直後、作家の高村薫さんが全国紙のインタビューで語った石破評を思い起こす。「彼は評論家であって政治家ではない」。慧眼(けいがん)だったかもしれない

▼石破降ろし派には望む結果になったが、正論を振りかざし人の責任を追及するのは簡単なこと。問われるのは今後だ。自民党の解党的出直しをどう図るか。多党化した国会を誰が先頭に立ってリードするか。よもや、次の選挙に有利な選択は何かだけを考えてはいないだろうが。