「テレビで見られないんけ」と職場の先輩が腹を立てていた。来春開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の中継が、動画配信サービスによる独占放送になった件だ。恐らく有料会員以外は生で試合は見られない

▼14日に防衛戦があるボクシング井上尚弥選手のタイトルマッチなどは、とっくに地上波で放送されなくなった。来年にも予定される中谷潤人選手との夢の対戦も、間違いなくそうなる。いずれオリンピックのライブ映像も、ただで見られなくなるかもしれない

▼「スポーツ中継の変革期を迎えた」と本紙は報じたが、地上波放送そのものが渦中にあるのだろう。若い世代がテレビ番組を見なくなった。新聞も同列に、オールドメディアとくくられる現実がある

▼昭和世代は帰宅したら取りあえずテレビをつけてはいなかったか。茶の間の居場所はテレビの配置を基に決まった。今や家でも出先でもスマホである。部屋に大画面テレビはあっても、ゲーム用という若者も

▼タレントが物知り顔でコメントする情報番組や、ひな壇に並ばせた芸人をつまみ食いするようなバラエティーに興味は湧かない。ただ、テレビを見ていて思いがけない話題に心を動かされることもある

▼有料配信やスマホでは、ほぼ狙いを定めてコンテンツを選ぶ。効率的でいいけれど、時には想定外や偶然も楽しめないと、ものを考える領域が固定化してしまいそうだ。そんな暮らし方がますます強まるとしたら、やっぱりどこか味気ない。