1961年というから坂本九さんが歌う「上を向いて歩こう」が大ヒットしたころだ。その年、「これからの残業管理」という本が出版された。敗戦国日本が顔を上げ、経済成長へ進んだ当時は、働きづめが当たり前になっていたようだ
▼ページをめくると、良くない慣習として「つえとニンジン」との言葉が出てくる。「アメとムチ」と言い換えてもいいだろう。尻をたたいたり褒美をぶら下げたりして能率を追う、そういう経営は古すぎると断じている
▼そして、残業を減らすには規律を認識させ、無駄をなくす気風をつくることだと説いている。だが、本が言うようにいかないのが現実だ。それをなくす妙案は何十年たっても見いだされていないといえる
▼そんな長年の悩みに対し、高知県庁の取り組みは解決策になり得るだろうか。職員の残業の割増賃金率を25%から50%に引き上げる条例案を県議会に諮るという。ともすれば残業代が膨れ上がるが、うまくいけば残業を是正する意識が生まれる
▼来年1年間に限った試みとはいえ大胆な策だ。割増賃金目当ての長時間労働が増えないよう、管理職がしっかり監督するという。時計をにらむことが管理職の大事な仕事になりそうだ
▼大きなニンジンをぶら下げられる職員は、どんな心持ちだろう。居残ってはいけないプレッシャーは、相当ではないか。遅くまで庁舎に明かりがついていないか、県民からのチェックは恐らく厳しくなる。仕事を家に持ち帰る悲哀が生まれませんように。
