
アユの塩焼きを丹精込めて盛り付ける奥田透。若い板前たちの動きに気を配り、調理場には緊張感が漂う=2025年7月、東京・銀座の銀座小十(撮影・京極恒太)
手の中で跳ねる小ぶりのアユに串を刺す。塩を振り、備長炭の火であぶる。串を絶えず動かし、うちわで仰ぐ。次第に表面は黄色みを帯び、香ばしいにおいが厨房(ちゅうぼう)に漂い始める。アユに耳を近づけ、音の具合で焼き加減を確かめる。
東京・銀座にある日本料理店「銀座小十(こじゅう)」で板前たちが休む間もなく、動き続けていた。「ミシュランガイド東京2025」で二つ星の名店だ。全体を統括する店主の奥田透(おくだ・とおる)(55)が時折、一人一人に目をやる。
アユは焼き上がるまでに約1時間かかる。毎シーズン500匹ほどを口にし、現在の塩焼きにたどり着いた。焼いているのに、頭と身は唐揚げのような食感で尾は干物...
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