アフリカ諸国と日本の地方自治体が友好を深める機会が失われたのは残念だ。だが、双方の協力関係は維持しなければならない。

 国際協力機構(JICA)がアフリカとの交流推進を目的とした「ホームタウン」事業を撤回すると発表した。

 交流サイト(SNS)で「移民が増える」といった誤情報が広がり、関係自治体が抗議を受けた状況を踏まえたものである。

 政府の事業が誤情報の拡散によって、発表からわずか1カ月余りで撤回に追い込まれた。極めて異例の事態である。JICAと所管する外務省には猛省を促したい。

 JICAは8月、地方の4市をアフリカ諸国のホームタウンに認定した。双方の架け橋となる人材育成が目的だった。三条市はガーナのホームタウンとなった。

 三条市はJICAなどと締結した協定に基づき、地域おこし協力隊員が、三条とガーナの双方で活動することにした。また、ガーナ政府の訪問団が市内を視察することになった。

 ところが、千葉県木更津市がホームタウンとなったナイジェリア政府が「日本が特別なビザ(査証)制度を創設する」と誤った内容の声明を発表した。

 JICAと外務省が否定したのは3日後だ。誤情報がSNSで拡散し、4市には「移民が増えると治安が悪化する」との電話やメールが相次いだ。三条市には9月24日までに約9千件寄せられた。

 当初からJICAとナイジェリア政府との意思疎通が不十分だった可能性がある。誤情報への対応が後手に回ったことは否めない。

 JICAには丁寧な準備と迅速な情報発信が欠けていたと言わざるを得ない。

 懸念されるのは、日本とアフリカの交流が停滞する事態だ。

 三条市では、JICAなどとの協定に基づく地域おこし協力隊員の活動と、ガーナ政府訪問団の視察が中止された。

 インターネットの匿名掲示板では「街はアフリカ人だらけになりひどいことになる」「暴行を受けても三条市や国にもみ消される」など根拠のない投稿が行われた。

 アフリカの人々への偏見や差別を助長する内容は看過できない。真偽不明の情報に惑わされることがないよう気を付けたい。

 三条市の滝沢亮市長は市民向けに、今後の国際交流について「これまで同様に国際親善、相互理解といった目的を踏まえてまいります」とのコメントを出した。適切な対応だったといえよう。

 日本は30年以上、アフリカ開発会議(TICAD)を主導してきた。8月の横浜市での会議には約50カ国の首脳らが参加した。

 長年培ってきた信頼関係は、貴重な財産だ。雨降って地固まる、の例えもある。官民が協力してアフリカとの関係を一層強めたい。