輸出ルールの緩和に歯止めがかからなくなる事態を強く懸念する。戦後日本の平和国家としての歩みを変えかねない。与党には自制的な議論が求められる。
自民党と日本維新の会は15日、安全保障政策に関する実務者協議を初めて開き、防衛装備品の輸出ルール緩和について議論した。
現行の防衛装備移転三原則の運用指針で輸出を「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の非戦闘目的に限る「5類型」について、協議では撤廃の方針を確認した。
指針では、国際法に違反する侵略や武力行使を受ける国に対して殺傷能力のない装備品のみ輸出を認めているが、今後は殺傷能力のある武器輸出も検討するとした。
輸出できる武器の幅を広げ、紛争当事国へも武器を送る行為は、日本が戦闘に加担することになりかねない。輸出の拡大が紛争を助長する恐れにも、与党は十分目を向けねばならない。
両党は連立政権合意書に5類型の撤廃を明記している。早ければ来春にも政府が指針を改定するスケジュールを想定する。
世界に影響を及ぼし得る変更だ。2党だけで前のめりに協議するのではなく、国会で議論を尽くす必要がある。
武器の輸出を巡っては近年、徐々に拡大されてきた経緯がある。
2014年、当時の安倍晋三内閣は事実上の禁輸政策を大きく転換したが、この際、連立を組んでいた公明党から「平和国家としての一線」を逸脱しないよう求められたことに配慮し、防衛装備移転三原則を設けた。
22年には安保3文書の改定で防衛装備品の輸出を「重要な政策的手段」と位置付けた。23、24年にも運用指針の改定などで輸出できる装備品の幅を広げてきた。
なし崩し的な拡大が図られてきたようで違和感が拭えない。
自維政権は今回、防衛産業の販路を確保し、基盤強化を図るためとしてさらなる武器輸出拡大を目指す。中国が覇権主義的な行動を強める中、同盟国、同志国と安保協力を深化させる狙いもある。
憲法の許容範囲を超える恐れがあり、専門家からは「有事ではない状況での武器輸出には正当な根拠がない」との指摘も上がる。
防衛省幹部は、これまで徐々に武器輸出の間口を広げてきたことを踏まえ、「5類型撤廃でたがが外れる。輸出のハードルは飛躍的に下がる」と見込む。
公明党の斉藤鉄夫代表は「殺傷兵器が紛争国に渡れば、『死の商人』と化す」と警鐘を鳴らす。自民の歴代の防衛相からも冷静な議論を求める声があることを、自維協議では重視すべきだろう。
タカ派色が強い高市早苗首相の下での安保政策の見直しは、周辺国へ警戒感を与える恐れもある。与党には、平和の旗を降ろさないための議論をしてもらいたい。
