がんや自己免疫疾患などの新たな治療法に道を開く研究が評価された。臨床への応用に向けた研究も進んでおり、世界中の患者に希望を与える快挙だ。

 功績をたたえ、改めて基礎研究の重要さにも光を当てたい。

 今年のノーベル生理学・医学賞に、体内の過剰な免疫反応を抑えるリンパ球の一種である「制御性T細胞」を発見した坂口志文大阪大特任教授と、米国の研究者2氏が選ばれた。

 昨年平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会に続き、日本の受賞は2年連続で、30人・団体となった。

 生理学・医学賞は2018年の本庶佑京都大特別教授以来、7年ぶりで、6人目となる。栄えある受賞を祝福したい。

 人体に病原体などが侵入すると、それを攻撃する免疫反応が起きる。だが、まれに正常な細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患を発症する人がいる。

 坂口氏は、健康な人にはそうした過剰な免疫反応が起こらないようにする制御性T細胞の目印となる分子を1995年に特定し、2003年には細胞に関わる重要な遺伝子の特定に成功した。

 多くの研究者から異端視され、不遇な時代もあったが、地道に研究を貫いた成果と言えよう。

 制御性T細胞は、人工的に増減させて免疫反応をコントロールすることで、自己免疫疾患の治療やがん、糖尿病などの治療、臓器移植の安全性の向上といった、幅広い病気で新たな治療法が生まれると期待されている。

 受賞が決まった後、坂口氏は記者会見で「治療が難しいと思われている病気についても有効な治療法や予防法が見つかっていくと私は信じる」と語った。

 専門家も「特にがんは、近い将来実用化の可能性がある」とする。研究の加速を期待したい。

 坂口氏の明るいニュースの一方で、国内の研究を巡る環境は厳しさを増している。

 幅広い分野を対象に自由な発想を開花させることを狙った科学研究費助成事業は低水準で推移し、若手を中心に研究職の待遇は悪い。世界で引用される日本の論文は過去最低水準で低迷している。

 この先も世界をリードする研究を育てるためには、今から国内の研究環境を整えることが欠かせない。国は今回の受賞を、環境改善への契機としてほしい。