財政規律がさらに緩むことが心配だ。政府は強い経済を打ち出したいのだろうが、財政が一層悪化し、国民生活に影響を及ぼす恐れがある。慎重な判断が必要だ。
高市早苗首相は衆院予算員会で、財政健全化の指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標に関する考え方を見直すと明言した。
首相は「単年度ごとの考え方は取り下げる。数年単位で達成状況を確認する方向への見直しを検討している」と答弁した。単年度での評価は「先進7カ国(G7)の中でも特異だ」と主張した。
先月の所信表明演説でも、「強い経済」の構築へ「責任ある積極財政の考えの下、戦略的に財政出動する」と述べていた。
複数年度での評価で、弾力的な財政出動を可能とする狙いがあるのだろう。
首相は、黒字化目標を今すぐに破棄するということではないとするが、PBは、小泉純一郎元首相以降、歴代政権が財政の健全度を示す指標として重視してきただけに、その方針をあっさりと転換したといえる。
野党が「放漫財政になりかねない」と批判するのも一理ある。
財政健全化の指標として首相は、政府債務残高の国内総生産(GDP)比を引き下げることを重視している。
経済規模に対し借金がどの程度あるかを示し、経済成長が続けば徐々に下がっていくとの立場をとるが、想定通りに進むか疑問だ。
21日にも閣議決定する予定の経済対策でも、積極財政を鮮明にする方針だ。長引く物価高への対策として、家計や中小企業の支援を柱とする。
物価高対策が喫緊に必要なことは分かるが、問題は財源だ。12月末に予定するガソリン税の暫定税率廃止に関しても、代替財源の決定が先送りされたのは、残念だ。
歳出が膨らみ過度な拡張財政となれば、税収だけで賄えず、赤字国債の発行に頼るしかない。
ただ日本の財政は既に危機的状況にあり、赤字国債を乱発し財政不安がさらに強まると、国債が売られ、長期金利の上昇につながる可能性がある。
国債市場では長期金利の指標である新発10年債の終値利回りが、2008年以来の高水準になるなど、高止まりしている。
円安の進行も懸念される。先週の東京外国為替市場の円相場は、対ドルで下落し、一時1ドル=155円近辺を付けた。
緩和的な金融環境を志向する高市氏の首相就任で、日銀の利上げが遠のくとの受け止めが広がり、この1カ月半程度で7円ほど円安が進んでいる。
円安による輸入物価上昇に伴いインフレが一段と加速すれば、国民の暮らしがさらに苦しくなることを忘れないでほしい。
