日中関係のきしみが急激に増している状況を憂慮する。過度に緊張を高める姿勢は、両国の国益を損ないかねない。中国の冷静な対応を求めたい。
中国が台湾に武力侵攻する「台湾有事」は、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得るとした高市早苗首相の国会答弁を巡って、日中間の応酬が続いている。
中国側は、孫衛東外務次官が金杉憲治駐中国大使を呼び出し、答弁を「極めて悪質」と非難して撤回を求めた。
さらに中国は、国民に当面日本への渡航を控えるように求めたほか、日本留学も慎重に検討するよう勧告するなど、対抗措置を相次ぎ打ち出した。
渡航自粛は、訪日客に頼る日本の観光業を狙った措置とみられ、既に中国の複数の大手旅行会社が日本旅行の販売を停止した。ビジネスや交流の停滞も心配される。
高市氏と中国の習近平国家主席が10月の首脳会談で確認した、「戦略的互恵関係」の推進という考え方とは相いれない状況だ。緊張緩和を急がなければならない。
中国は、台湾を不可分の領土とする「一つの中国」原則を掲げ、「核心的利益」とする台湾問題では譲歩しない姿勢を貫いている。
高市氏の答弁は、その繊細な台湾問題に踏み込む内容で、日本政府内でも「緊張を高めるだけの不用意な発言だった」との見方が大勢を占める。答弁に、より慎重さが必要だったといえる。
とはいえ、その後の中国側の反発は、日中関係が改善をみせていた近年では異例の強硬なものだ。
中国政府やメディアは、高市氏の答弁に激しい批判を繰り返す。
「中国人に対する犯罪が日本で多発している」といった根拠を示さない主張もある。
今後の両国関係の発展を阻害しかねない発信だ。中国は国民の反日感情をいたずらにあおることは慎むべきである。
首相答弁を受け、中国の駐大阪総領事が交流サイトで「汚い首は斬ってやる」などと投稿したことに関し、自民党が総領事のペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)通告に言及した決議を首相官邸に提出した。
この総領事が参加を予定していた広島市での日中友好行事を中国側が中止するなど、影響は広がり始めている。
こうした中、外務省の金井正彰アジア大洋州局長は18日、高市氏の答弁を巡り中国側と北京で協議に臨む。金井氏は、答弁が日本政府の従来の姿勢を変えるものではないと説明し、日中関係への影響を避けるよう訴える見通しだ。
歩み寄りは容易ではない。それでも立場の違いを認め、対話を重ねることでしか互恵関係は築けない。そのことを肝に銘じ、両国は協議を前進させてもらいたい。
