再稼働へ一気に地ならしを進めようとした印象だ。カネをてこにするかのような姿勢は県民にどう映ったか。東京電力や国に求められているのは、信頼を得るための愚直な姿勢であるはずだ。

 東電柏崎刈羽原発の再稼働問題を巡り、小早川智明社長は県議会の連合委員会に参考人として出席し、継続的に原発が稼働できることを前提に、地元に対して10年程度で計1千億円規模の資金を拠出する方針を示した。

 再稼働による燃料費削減で得られた費用を還元する。除排雪体制の強化や屋内退避施設の整備といった取り組みのほか、防災産業や脱炭素など成長が見込める分野への投資を想定する。

 小早川氏は、具体的な使途は「県に裁量がある」とし、拠出の趣旨については、地域経済活性化への「貢献」と述べた。

 だが、再稼働を前提として挙げていることからも明らかなように、見返りとして「同意」を迫るような資金拠出である。

 カネで再稼働を買おうとしているのであれば、県民を愚弄(ぐろう)する姿勢である。

 信頼を得ることを最優先すべき東電にとって逆効果をもたらすのではないか。

 県議会には資源エネルギー庁の長官らも出席し、総事業費1千億円超と見込まれる避難道路の全額国費での整備を説明した。

 内閣府も100億円程度で原発事故時の避難先となる体育館の気密化や空調の集中整備に取り組む方針を示した。

 再稼働に向け、国がこれまで以上に前のめりになっているのは間違いない。10月末以降に再稼働についての判断を示すとしている花角英世知事に強いメッセージを送ったといえよう。

 小早川氏は資金拠出と同じく、あくまでも再稼働を前提に、柏崎刈羽の1、2号機の廃炉に向けて具体的検討を進めることも正式に表明した。

 「柏崎刈羽原発の安全運転に万全を期すため」の検討だという。ただし廃炉を決めたわけではなく、「検討に入る」に過ぎない。そもそも1、2号機の廃炉と、6号機の安全な運転がどう関係するのか、説明が足りない。

 議場では、自民党県議団が資金拠出などを質疑で引き出す形で進んだ。あらかじめ東電やエネ庁と水面下の交渉を重ね、答弁をすり合わせたとみられる。これに対し国政野党系会派からは「出来レース」との反発の声が上がった。

 公正さに疑念を抱かせる議会運営は適切ではない。

 知事は16日の県議会の終了後、連合委員会の審議が自らの判断に影響するかについて「県民がどう受け止めるか見極めたい」と述べるにとどめた。

 真に県民の心情と向き合った判断を求めたい。