読書の秋、虫の音を聞きながら本を開くのも悪くない。読書家を本の虫と呼ぶことがある。紙が好物で本にすみつくシミという虫から派生したとの説もある
▼かつては読書以外のことに疎いという意味もあったようだが、時の流れとともに新たなニュアンスが加わった。電子書籍が幅を利かせる時代にあってもなお、紙の本を好む人が少なくない
▼中学生が自らの考えを発表する恒例の「わたしの主張」大会で、何人かの本の虫に出会った。彼女たちは紙の本で読む大切さを説いた。デジタルに慣れ親しんだ世代の提言に共感よりも驚きの気持ちが勝った
▼ある生徒は紙の本が感覚に働きかける点に着目した。ページをめくる触覚、本から漂うにおいの嗅覚…。活字を目で追う視覚と合わせて紙のメリットを訴えた。別の生徒は自身の読書体験を踏まえて、「こんなにも読み進めた」という達成感が得られたという
▼紙が当たり前だった学校の教科書も変わりつつある。これまで「代替教材」の位置付けだったデジタル教科書が正式な教科書に格上げされる。紙、デジタル、双方の併用の中から各教育委員会が選ぶ。文部科学省は2030年度の導入を想定する
▼紙にもデジタルにも長所と短所がある。北欧のスウェーデンでは、読み書きや計算などの学習について紙に回帰している。昔の辞典を引くと、本の虫には勉強家の意味も載っている。果たして新しい教科書で勉強の好きな子が増えるのか。令和の若き本の虫に聞いてみたい気もする。













