芸術の秋を気取って、新潟市内のギャラリーを訪ねてみた。十日町市出身で、佐賀県唐津市の陶芸家藤ノ木土平(どへい)(本名・民義)さん(75)の個展には、唐津焼の変化に富んだ茶道具や花器、皿などが並んでいた
▼古里新潟での開催は、4年ぶりという。高校卒業後、画家を志して上京し、旅先で出合った唐津焼に引かれて作陶の道に進んだ。いわゆるよそ者ではあるが、地元では第一人者として活躍してきた
▼展示作品から少し距離を置いて見ていると、藤ノ木さんは「ぜひ手に取ってみてください」と勧めてくれた。あちこちひっくり返して、穴が開くほど見てもらえる方が、たとえ買ってもらえなくても作り手としてうれしいのだそうだ。触れてみてこそ、作品の質感や肌触りが伝わってくる
▼南魚沼市の洋画家井口優さんも10月、80歳の傘寿を記念した個展を別のギャラリーで開いた。カンバスから絵の具がそそり立つような迫力あるタッチが印象的だった。地元の楽しい話を聞きながら眺めていると、井口さんがテーマにして描く八海山をより身近に感じた
▼市場規模が大きい東京などの大都市と比べ、地方のギャラリー経営は容易ではないと聞く。長引く景気の低迷や物価高で、私たちの暮らしもゆとりがなくなってきている
▼個展というと入りづらいと思う人も少なくないだろう。作品の値札を見ればため息も出る。それでも少し勇気を出して作家との会話を楽しみたい。見る目が養われ、新たな発見が得られるのを実感できるから。
