風の怖さを思い知る。大分市佐賀関の約180棟を焼いてしまった火の勢いは恐ろしく、1・4キロ離れた島にまで飛び火した。大分県知事が言うように、強風がもたらした自然災害である

▼9年前の糸魚川は強い南風だった。あのとき大火の知らせにおののきつつめくった資料を今年再び開くことになるとは思わなかった。酒田大火の資料だ。山形県の庄内平野に位置する酒田も風が強い

▼昔から何度も大火に泣いてきた。1976年の酒田大火は10月29日だった。強い風が吹き荒れていた。夕刻に映画館から出た火が1774棟を奪ってしまった。その際に消防署の隊とともに活動した消防団の記録がある

▼出動した団員の人数は、1700人以上と伝わる。「火勢に押され移動する際に消火ホースが撤収できなくなる」との記述からは、猛火の前線に立つ団員たちの姿が浮かぶ。「もてる士気を発揮し最後まで火災に立ち向かった」との賛辞が残る

▼だが、突き進む勇ましさばかりが称賛の対象になるわけではない。佐賀関から聞こえてきた消防団の活動もすごい。火の激しさを目の当たりにし、「プロに任せないと」と判断した。消火は隊員に託し、団員は人命救助に切り替えた

▼民家を一軒一軒、警察官と回り20~30人を避難させたという。火勢が幾分和らいだ翌朝から再び消火活動に加わった。その献身に頭が下がる。高齢者が多い地域事情に応じた判断が命を救い、安心を生んだ。この機転もまた、後世への記録に残し、伝えたい。

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