テレビドラマ「ふぞろいの林檎(りんご)たち」などを手がけた脚本家の山田太一さんは、著名作家らによるアンソロジー「生きるかなしみ」を編集している。滋味深い小品を集めている。巻頭言は自ら書いた
▼〈人が生きていること、それだけでどんな生にもかなしみがつきまとう。「悲しみ」「哀しみ」時によって色合いの差はあるけれど、生きているということは、かなしい(中略)人間に出来ることなどたかが知れている〉
▼山田さんのその一文をにわかに思い浮かべた。出産直後の女児の遺体を自宅に放置したとして、神戸市の24歳女性が逮捕された報を目にしてだ。女性は一人で産んだ後、赤ちゃんポストで知られる熊本市の慈恵病院にメールで助けを求めていた
▼病院側は保護を意図して警察に連絡したが、女性は逮捕された。警察への抗議の会見を開いた病院長によると、女性は「赤ちゃんが息をしていない。パニックになってしまった。今からできることはあるか」と相談していた
▼プライバシーに関わる詳細は分からない。警察は法に基づく判断だとする。それはそうなのだろう。まれにある事案なのかもしれない。ただ、たった一人「誰にも頼れない」とメールを送った女性の孤独がかなしい
▼病院が会見した翌日、新潟市では生後間もないとみられる赤ちゃんの遺体が、道路脇の雪の上で見つかった。警察が捜査する。子どもには母親がいて父親もいたはずだが、そこに幸せな景色は重ならない。小さな命の末路が、つらすぎる。
