日曜日の夜に放送される「サザエさん」が始まるころになると、明日の仕事や学校のことを考えて気分が沈んでしまう。そんな心の状態を「サザエさん症候群」と呼ぶようになって久しい

▼敬和学園大学3年生の清野栞里(せいの・しおり)さん(21)はサザエさんを見ると、別の意味で気持ちが落ち込む。その理由は磯野家の一家団らんの場面にある。「ほのぼのとしたシーンのようだがモヤモヤする」という

▼真ん中に陣取る波平を中心に家族がちゃぶ台を囲む。波平は座布団の上にでんとあぐらをかき、カツオやワカメ、タラちゃんは正座だ。酒を酌み交わす波平らにフネやサザエはかいがいしく食事を運ぶ

▼国民的アニメ番組から、家長が家族を支配する家父長制が垣間見える。そう感じた清野さんは家父長制の問題点を論文にまとめ、学内で発表した。社会問題となっているハラスメントの多くは家父長制が影響しているとも指摘した

▼ともに暮らす祖父母や親の言動に違和感を抱くことも一再ならずある。「年齢が高いほどアンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込み)が強い」とは清野さんの実感だ。「男性は仕事、女性は家庭」で育った世代と若者とでは、家族を巡る意識に乖離(かいり)がある

▼サザエさんが名作たり得たのは昭和の時代だったからともいえる。誰もが生きやすい社会にするためには、まずは己の何げない言動が誰かを傷付けていないか、気を配ることから始めたい。清野さんらの世代から「ばっかもーん!」とどやされないように。

朗読日報抄とは?