日が短くなるにつれ、朝起きられなくなってきた。部屋の寒さも手伝って、布団から出るのに難儀する。寝ぼけた頭にふと浮かんだ。「このまま冬眠してしまいたい」
▼寝言のような妄想はさておくとして、人間を冬眠状態にできれば社会は劇的に変わるだろう。事故に遭った人の臓器や組織の損傷を進みにくくして、治療までの時間を稼げる。気の遠くなるような時間が必要な宇宙旅行にも耐えられるのではないか
▼人工冬眠に関する研究が進んでいる。2020年には、筑波大と理化学研究所のチームが研究成果を発表した。本来は冬眠しないマウスの脳にある細胞を刺激して、冬眠に近い状態を作り出したという。刺激をやめると約1週間で平常の状態に戻った
▼人間にも応用できるだろうか。こんな例がある。06年10月に兵庫県の六甲山で遭難した男性は、約3週間後に救助された際の体温は20度余りで心肺停止状態だったが、その後無事回復した。奇跡的な生還は男性が冬眠状態だったからとも考えられる
▼人間が冬眠に至る可能性が広がる一方、通常なら冬眠する生き物が寒くなっても活動を続けるケースが懸念されている。クマである。人里で十分に餌が採れれば冬眠しない個体が増える恐れがあるという
▼本紙「ワンショット」にこんな投稿があった。〈寝る子は育つ 寝ないクマは困る…〉。季節が移ろえば、徐々に姿を見せなくなるはずなのに。「早くおやすみ」と言いたくなる。クマに冬眠を促す技術も開発されないか。
