今年の新語・流行語大賞に高市早苗首相の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」が選ばれた。表彰式には首相が現れ「国家国民のため貢献したいという思いだった」と満面の笑みを浮かべた。このフレーズが今また話題になるのは何の因果か

▼生活保護費の引き下げを違法とされた政府は、新たな指標で引き下げた上で違法な減額分との差額だけを補償するという。流行語大賞とは何の関係もない。ただ、減額を譲らぬ政府方針を横目に、受給当事者は「働いて…」をどう受け止めるだろう

▼働きたくても病気や障害のため、思うように働けないという人も多い。頑張りたいだけ頑張れる人ばかりではない。頑張ることができない痛みや失意、悔しさを自分の胸に重ねてみる

▼折しも首相の生活保護にまつわる過去の発言が、国会で取り上げられたばかりだ。「さもしい顔してもらえるものをもらおうとか、そんな国民ばっかりになったら日本は滅びてしまう」。2012年の発言だ

▼首相は「不正受給への対策を訴える意図だった」と釈明した。その通りなのだろうが、当時の自民党が生活保護の引き下げを公約に掲げて政権に復帰し、時を置かず違法な減額が断行されたことは事実である

▼全国公的扶助研究会が監修した生活保護実践ガイドブックが手元にある。心の不調と生活保護が密接に結び付いていることが分かる。さまざまな疾患や障害に悩む人への現場の支援例を読んでいると、決して人ごとではないことを自覚する。

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