オーケストラの団員というと、幼い頃から音楽教室に通っているイメージがある。だが、新潟大学管弦楽団の約140人の中には入団して初めて楽器に触った人もいる

▼団のモットーは、全員参加。みんなで助け合い、みんなでステージに立つという伝統を引き継いでいる。経済科学部3年の北岡渉部長(22)の場合、高校まで打楽器を担当していたが、入団後、あこがれのバイオリンを手にした

▼楽器をあごと左肩ではさみ、弓を動かし、ドレミと音を出すことから始めた。プロにレッスンを受け、先輩たちのアドバイスに耳を傾けた。1年半がたつ頃、ようやく合奏が楽しくなったという

▼曲目も全員で相談して選ぶ。新潟市民芸術文化会館で6日に開く定期演奏会では、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴(ひそう)」など3曲を演奏する。チャイコフスキーは、この曲を「私の魂の最も正直な告白だ。私の心の叫びだ」と評した。複雑な感情を表現しなければならない難しい曲だが「挑戦しよう」との声が勝った

▼1月の本紙に載った、スタジオジブリの映画音楽で知られる作曲家、久石譲さんの言葉を思い出した。海外のオーケストラを指揮して気付いたことがあったという。それは「年齢も能力も違うさまざまな人がいるからこそ、自分たちのサウンドが作れるということ」だった

▼「さまざまな人がいるからこそ」。この一言の大切さは音楽の世界だけにとどまらないだろう。地域や職場、学校に、広く響かせることはできないだろうか。

朗読日報抄とは?