めっぽう暑かった今年の夏、長野県の野尻湖へ行ったときのことだ。子どもから高齢者まで多くの人が湖畔で何かを探していた。聞けば、水辺の生き物の観察会だという
▼陸のデッキに置いた水槽を、男児が飽きずに眺めていた。何が捕れたか、のぞかせてもらうと、そこには立派なウナギ。野尻湖には昔から、天然のニホンウナギが生息していると、観察会に参加する研究者が教えてくれた
▼ニホンウナギは、日本から約2千キロも離れた太平洋のマリアナ諸島付近の海域で、卵から生まれる。海流に乗り、稚魚のシラスウナギとして日本沿岸にたどり着く。河川や河口で5~15年かけて成長するというが、生態は謎に包まれている
▼野尻湖は焼山を水源とする関川水系の湖だ。あのウナギが遠く離れた太平洋で生まれたとすれば、台湾や中国の周辺を通って日本海へと泳ぎ、上越、妙高へと関川をさかのぼってきたことになる。分からないだけにロマンがある
▼ニホンウナギの資源管理を巡り、野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約の締約国は、ウナギ全種を規制する提案を不採択にした。採択されれば物流の停滞や価格上昇を招く恐れがあった
▼世界最大のウナギ消費国である日本には朗報といえるが、安心してはいられない。ウナギの資源量は以前より著しく減少し、日本が供給の7割を頼る中国とは国家間の対立が深まっている。伝統的な食文化を守るには、日本はどこより、資源保護と国際協調を意識しなくてはいけない。
