子どもの頃、日曜洋画劇場は「さよなら、さよなら…」の淀川長治さんで、水曜ロードショーは「映画って本当にいいもんですね」の水野晴郎さんだった。テレビで覚えた映画評論家の中で、月曜ロードショーの荻昌弘さんはとりわけ実直な印象があった
▼その荻さんはかつて、本紙に週間映画館のコラムを持っていた。1985年3月2日付は新潟市の映画館「名画座ライフ」の閉館について〈さびしい。悔しい〉と書いた。商業主義と一線を画す映画愛のある運営への敬意をつづり〈市民の損失は、はかり知れない〉と嘆いた
▼ライフの気風を継ぐ器として40年前のきょう、万代シテイにオープンしたのが、新潟・市民映画館シネ・ウインドだ。ライフ閉館から約9カ月後のこと。紙上の荻さんの言葉が風を起こしたとされる
▼当時36歳の現代表斎藤正行さんが先導し、会員制で市民から資金を募った。企業などの後ろ盾もない徒手空拳の活動は、詐欺かと怪しまれたり罵倒されたりした
▼映画館の隆盛期は過ぎていた。単館経営は特に厳しい時代だったが、ボランティアの協力でやりくりし独自路線を歩んだ。マイナーでも自由で幅広い映画の魅力を伝える作品を、上映し続けた
▼設備更新はその都度募金でまかない、新型ウイルス禍による経営危機も支援の寄付で乗り切った。市民が価値を共有し、力を集めて支え合う文化を根付かせたともいえる。40年の歳月を経て、新潟という街の個性を形づくる大切なファクターの一つになった。
