若い世代を中心に編み物がブームだそうだ。韓国で人気のアイドルが火付け役で、毛糸が品薄になる店もあったという。SNSに投稿される若い世代の作品はどれも個性的だ
▼ロレッタ・ナポリオーニさん著「編むことは力」によると、最古の編まれた布地は紀元前6500年ごろのもので、イスラエルの洞窟で見つかった。紀元前1000年ごろに世界各地に根付いて以降、主に女性たちによって編まれてきた
▼同書には、編み物は政治への意思表示にも用いられたとある。例えばトランプ米大統領が1期目の政権で、メキシコとの国境に壁を造ろうとしたとき。これに抗議して壁と同じ長さの糸でブランケットを編み、移民を包み込んで受け入れる運動が女性を中心に広がった
▼編み物を楽しむ男性も少なくない。東京五輪高飛び込み競技の金メダリストで英国のトーマス・デーリー選手は、競技の合間に編み物をする姿が話題になった。推理作家の横溝正史は、小説「女王蜂」の主要なアイテムに編み図を用いた。本人もかなりの腕前だったそうだ
▼単調な動作を繰り返すため、編むこと自体にリラックス効果があるという。指先を動かすことで認知症予防につながるとの話もある。何より、手編みの温かさは格別だ
▼しかし、最大の魅力はやり直せることではないだろうか。失敗しても、ほどけば元の糸に戻る。何度でもチャレンジできるだけでなく、全く違うものに編み直すことだってできる。さて、この冬は何から編み始めようか。
