「俺ってストロングだぜぇ」。大声で叫ばせて自信を植え付ける。新潟市出身の漫画家小林まことさんの「柔道部物語」には、ユニークな指導で高校の柔道部員を鍛える五十嵐先生が登場する
▼モデルは新潟商業高校柔道部の顧問を20年間務めた五十嵐寛司(かんじ)さん。県柔道連盟の会長も歴任した。小林さんは新商柔道部の教え子だ。漫画でコミカルに描かれる五十嵐先生だが、小林さんによると実際は異なり「そばにいるだけで居ずまいを正すほど迫力があった」という
▼五十嵐さんが先月、87歳で死去した。講道館柔道九段の赤帯を締め、ひつぎの中で安らかに目を閉じていた。葬儀には多くの柔道関係者が参列した
▼こんなエピソードもある。30代で柔道を始めた女性が初段審査に挑んで4戦全敗だったが「中高生に交じって挑戦したのは素晴らしい」と段位を特別に認めた。息子の寛さんは「教え子からは怖い人だったと聞きましたが、家族には本当に優しい父でした」と振り返る
▼五十嵐さんが自身の柔道人生をまとめた冊子の題名は「牛歩の修練」。その中で「牛歩-あきらめずに粘り強く、実践することにより確実にあることに近づいて行く、そんな言葉が私の心の支えとなっていた」と説く
▼何事もスピードが重視される時代だ。午(うま)年の来年はその傾向が強まるかもしれない。それでも一つのことを成し遂げるには時間をかけて取り組むことが欠かせない。「一歩ずつ確実に」。屈指の柔道家は泉下で後輩に叫んでいることだろう。
