重要機密を守ると称して、言論や思想の自由といった国民の権利を脅かすことがあってはならない。真に国民を守る議論がされているのか、見極める選挙となる。
外国勢力のスパイ活動を取り締まるスパイ防止法をはじめ、国のインテリジェンス(情報活動)強化への賛否が、衆院選の争点に浮上している。
自民党と日本維新の会の連立政権が、日本のインテリジェンスは脆弱(ぜいじゃく)だとし、強化を急ぐ意向を鮮明にしているからだ。
連立政権合意書には、スパイ防止法の早期制定のほか、米中央情報局(CIA)のように海外で情報活動を行う「対外情報庁」の設置も掲げている。
インテリジェンス機能の司令塔となる「国家情報局」は、内閣情報調査室(内調)を格上げする形で創設を目指す。
政府は国家情報局について、内調とは異なり、警察庁や外務省といった省庁に情報共有を要求できる法的権限を持たせる方向で検討を始めている。
高市早苗首相は19日の記者会見で「国民の信任を得ることができたら、政策実現のスピードを加速できる」と解散の意義を述べた上で、衆院選後に進める政策にスパイ防止法制定などを挙げた。
選挙の結果次第で、政策は一気に進み得る局面にある。
懸念するのは情報活動が市民への監視に向かう恐れがある点だ。
戦前の治安維持法は共産主義の取り締まりを名目に制定されたが、徐々に対象を広げ、反戦の思想を持つ一般の人々を弾圧した。言論は萎縮し、無謀な戦争が続く一因となった。
監視や権力の暴走への警戒は、過去のものではない。自民党は1985年にも、最高刑を死刑として機密の探知・収集を処罰する「国家秘密法」案を提出したが、世論の猛反発を受けて審議入りしないまま立ち消えとなった。
高市政権が制定を目指すスパイ防止法の監視対象は明らかになっていないが、市民も対象になるという指摘は多い。
詳細な内容が不明なまま、白紙委任できるテーマではない。衆院選の論戦では理念にとどまらず、監視の無制限な拡大を防ぐ策などを含め説明を尽くすべきである。
野党では、中道改革連合が省庁横断的なインテリジェンス体制の強化を掲げる。国民民主党と参政党はスパイ防止法制定を訴える。両党は昨年の臨時国会にそれぞれ独自法案を提出した。共産党、社民党はスパイ防止法に反対する。
外国勢力の取り締まりが、排外主義につながる懸念もある。議論を重ね、課題を洗い出す慎重さが各党に求められる。
