他国の主権を無視し、自国の利益のみを追求する行為は許されない。国際社会の安定を揺るがしていることを自覚するべきである。
デンマーク自治領グリーンランドを巡り、安全保障を目的に領有を目指すトランプ米政権と、反対するデンマークや英仏独など欧州8カ国の対立が続いている。
8カ国はいずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国だ。米欧の亀裂が、ロシアの侵攻を受けるウクライナの支援などに及ぼす悪影響が心配だ。
トランプ氏は21日、領有実現に向け、8カ国に追加関税を課す方針を撤回した。「武力は行使しない」と述べた。
当然のことではあるが、米欧間の危機的な状況が回避されたことは評価したい。
トランプ氏はNATOとの間でグリーンランドを含む「北極圏全体に関する合意に向けた枠組み」を構築したと発表した。
この枠組みは、安全保障に関するものとされる。領有方針は維持しており、対立の火種は残ったままである。
トランプ氏は昨年12月、北極圏でロシアと中国の脅威が拡大しているとして、自国防衛の観点から「手に入れなければならない」と領有に意欲を表明した。
デンマーク側は「国境や国家の主権は国際法に基づいている。他国を併合することはできない」と反発した。
グリーンランドにはレアアース(希土類)など豊富な地下資源が埋蔵されているが、環境保全の観点から開発が制限されている。現地では、真の狙いは資源とみて警戒を強めている。
トランプ氏はベネズエラを攻撃し反米左派の大統領を拘束した際、世界最大の埋蔵量を誇る原油の権益を確保する考えを示した。
南北米大陸を中心に、西半球を米国の勢力圏とする「ドンロー主義」を確立する意図は明らかだ。
「米国第一主義」が、力による現状変更を認めないという国際規範を傷つけている。嘆かわしい限りである。
米国は過去にグリーンランド購入を打診した経緯があり、トランプ氏の「レガシー(政治的遺産)づくり」との見方もある。私利私欲のためだとすれば、大国のリーダーとしての資質が問われよう。
米国と欧州各国が今、向き合わなければならない最優先課題は、ロシアとウクライナの和平にほかならない。
トランプ氏は2期目の就任後、すぐに和平を実現してみせると豪語した。ロシアの侵攻から来月で4年となるが、停戦のめどは立たず、死者は増え続けている。
米国が国際法を尊重せず、グリーンランド領有にこだわれば、ロシアにウクライナ侵攻を正当化する口実を与えかねない。すぐに撤回するべきである。
