ブラジル先住民をテーマにアニメーションを制作しているタニア・アナヤ監督。第4回新潟国際アニメーション映画祭では「ニムエンダジュ」が長編部門にノミネートされた。先住民を取り巻く文化や政治など重層的なテーマとどのように向き合い、アニメーションをつくり上げたのか、監督に聞いた。(ライター・橋本安奈)
──タイトルの「ニムエンダジュ」は主人公カート・ニムエンダジュの名前から取っているそうですね。
カートはドイツ語で、ニムエンダジュはグアラニー語です。この名前が表すように、彼は「二つの世界の間」を生きた人。ドイツからブラジルに移り住み、生涯を先住民研究に捧げました。彼の年間サイクルはというと、ブラジル内陸部で生活する先住民の巡礼に半年を費やし、残りの半年をブラジル北部の都市ベレンにある自宅で過ごすというもの。体験の記録や研究に没頭しました。「先住民の世界」と「白人の世界」、田舎と都市のあいだを往還する人生だったんです。
──なぜ彼をアニメーションの題材にしようと思ったのですか。
ニムエンダジュは、ブラジル先住民に関する資料を収集・整理して、約50の民族を研究しました。膨大な資料は今日に至るまで最大規模で、彼の業績はいまもなお重要です。彼のことを調べるほどに、その情熱や献身に心動かされました。ニムエンダジュの軌跡をたどることは、先住民問題を理解することにつながると思うんです。この作品は歴史資料だけでなく、彼が残した膨大な著作、日記や書簡、彼を研究した研究者の資料などを参考にして制作したんですよ。
──アニメーションの制作に入る前に、現地調査を含めたリサーチを入念に行ったそうですね。
「ニムエンダジュ」のタニア・アナヤ監督
先住民の住む集落に行って、彼らの日常生活を調査したのは5ヶ月間なのですが、その事前のリサーチ、脚本、構想を含めるともっと長い歳月が流れています。先住民の人たちと一緒に仕事をするときに大切だと感じていることは、彼らのことをよく知ること。十分に知識を備えないまま行ってしまうと、悪いことや失礼なことをしてしまうかもしれないので。
──人類学者もアニメーションの制作に関わっているんですよね。
やっぱり繊細な状況が先住民を取り巻いており、人類学者の方々の協力は重要でした。誰の紹介もなく急に訪れたら不審感を与えてしまうので、まずは彼らが信頼している人(人類学者)に紹介してもらう。とはいっても、2000年頃から先住民の人たちとのつながりは徐々にでき始めていました。大きなきっかけは、マシャカリの人びとのドキュメンタリーアニメーションをつくったことです。その制作を通して、集落に招待してもらえるなど関係性が広がるなか人類学者や活動家の人たちに出会っていき、今回の作品につながっています。
──現地に滞在してみて、いかがでしたか。
この作品はアニメーションをつくる前にすべて記録撮影をして、原画の参考にしているんです。2012年に小さな撮影クルーで現地へ赴きましたが、毎日が驚きと即興にあふれていて冒険のようでした。インターネットも電話も、ときにはシャワーもトイレもベッドもない環境。そして、照明はすべて自然光のみ。言語の違いから誤解が生じることもありましたね。でも、その場に身を置いて先住民の世界を身体的にも精神的にも経験できたことは、とても幸せなことでした。そこに暮らす人や環境をより深く知ることで、初めに語ろうとしていた物語そのものが変化して、村々を訪れたあとに脚本を大きく修正しました。
──なるほど。監督が予想していたことと実は違った、というようなことも結構あったんじゃないでしょうか。
そうですね、現地に行く前にさまざまな文献を読んで調べていっても、読んで想像していたものと実際のところはやっぱり違うこともあって。一つ、おもしろいエピソードを思い出しました。作品のなかで、少女が亡くなってお葬式のような儀式をおこなうシーンがあるのですが、本当はそのシーンを先住民のみなさんに再現してもらいたかったんです。でも縁起が悪いので誰も演じたがらなくて。結局、私が死んでいる少女の役をすることになりました(笑)。それ以外は喜んで協力してくれたんですけど。
──その後、悪いことは起きていないですか。大丈夫ですか(笑)。
いまのところは大丈夫ですよ(笑)。
──最後に、日本のアニメファンにメッセージをお願いします。
日本でヤノマミの人々やイゾラドの人々のドキュメンタリーが放送されて反響があったと聞き、先住民への関心の高さをうれしく思います。同時に、ぜひ他の民族の文化にも触れてもらえたらいいなと思います。この作品を通して伝えたかったのは各民族の固有性であり、それぞれが豊かで独創的な文化を持つということ。ひとまとめにする一般化を避け、根深いステレオタイプを打ち破る姿勢をニムエンダジュは教えてくれるはずです。
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〈次回の上映〉
◆【24日10:00】(長編コンペ)「ニムエンダジュ」上映(シネ・ウインド)
ブラジル・ペルー/2025年/85分/監督:タニア・アナヤ
「ニムエンダジュ」
40年間、先住民と暮らした社会科学者カート・ウンケルは、グアラニー族から「ニムエンダジュ」として洗礼を受け異文化研究に一生をささげた。カートは先住民が迫害され、土地を追い出される姿を目の当たりにする。












