「ディプロドクス〜恐竜とボク〜」のヴォイテク・ヴァヴチェク監督
「ディプロドクス〜恐竜とボク〜」のヴォイテク・ヴァヴチェク監督

 恐竜、科学者、魔術師という奇妙なメンバーの旅物語「ディプロドクス〜恐竜とボク〜」。ヴォイテク・ヴァヴチェク監督は、作品の中で描かれるアーティストの葛藤を自身も経験したという。第4回新潟国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門に選ばれ会場を訪れた同氏に作品に込めたメッセージについて、語ってもらった。(ライター・橋本安奈)

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──登場するキャラクターの組み合わせが絶妙だと思いました。たとえば科学者と魔術師。相反するようなキャラクターですよね。

 気付いてくれてうれしいです。主要なキャラクターが4人いるんですけど、実はそれぞれが対立する設定や性格にしているんです。科学の代表者と神秘的な世界の代表者。トリックスターと正直者。体験を重視するタイプと理論からアプローチするタイプなど。相反するものの「衝突」によって物語がダイナミックに展開します。ロードムービー的でもありますよね。

──キャラクターは、マンガが元になっているんですよね。

 作品のキャラクターやビジュアルイメージ、世界観は1980年代に出版されたポーランドのマンガが原作になっています。タデウシュ・バラノフスキが描いたマンガで、250万部が出版されました。ポーランドでこの部数は異例のことです。私の世代(40代後半)は、ほぼみんな読んだんじゃないかと思います。このマンガがきっかけでアーティストやクリエイターになった友だちもいて、もちろん私もその一人です。

──伝説的なマンガだったのですね。なぜそんなに影響力があったのでしょう。

 それはポーランドの1980年代を考えると分かりやすいかもしれません。80年代は大きな政治的変化があって、貧しく、困難な時代でした。世界は灰色で、希望がない時代。それが私の子ども時代です。子どもたちにとって、少しでもよりよい世界を旅する方法が本だったのではないでしょうか。そして色彩と夢があるこのマンガの世界に浸ることで「鉄のカーテン」の向こう側を旅していたのだと思います。

「ディプロドクス〜恐竜とボク〜」のヴォイテク・ヴァヴチェク監督

──アニメーション作品について、愉快で軽やかなテンポで進みながらも、随所に皮肉やブラックジョークがちりばめられているなと感じました。これはポーランド的なユーモアなんでしょうか。

 どちらかというと、典型的なポーランド的ユーモアとは違うかもしれないです。私は不条理なユーモアが大好きで、たとえばモンティ・パイソンに影響を受けています。あるいはチェコの作品に見られるような深淵であると同時にクレイジーな世界観も好きです。

──極端に目が大きいキャラクターや、極端に派手でかわいさを全面に押し出したキャラクターが登場しますが、意図がありそうですね。

 これには私がクリエーターとして仕事をするなかで、日々痛感していることが込められています。「かわいさ」というものはすぐに子どもの心をつかみ、とても速く利益を上げます。また、巨額のお金があるとき、キャラクターはなんでもとても騒がしく、カラフルで、大きなものになることがあります。でもその多くは、コピーのコピーのコピーのような、作家のオリジナリティーが存在しないものです。この作品では特定のデザインを嘲笑しているわけではなく、ときにアーティストが本心に反することを強制される問題に光を当てています。

──作品に登場するアーティスト、テッドも物語のなかで葛藤し、成長していくように思います。

 テッドが直面する試練は、私自身、そしてすべてのアーティストが通らなければならない道なのだと思います。もしアーティストが食べるためだけに仕事をしていて、自分自身から湧き出ることをやらないなら、アーティストとして成長しません。そして自分の内なる声はささやくもので、決して叫ぶものではないと私は思っています。内なる声を信じることにこそ価値があると、この作品を通して伝えたいです。

──ポーランドで長編アニメーションは盛んに制作されていますか。

 いえ、実はまったく。本作はポーランドで初の3DCG長編アニメーションなんですよ。「こんな大規模な制作をリソースもないまま挑戦するなんてクレイジーだ!」といろんな人に言われました。コアメンバーは少数精鋭で、私も脚本だけでなく、ストーリーボード、音楽や効果音の監修、声優など6役をこなしました。劇中で歌っているたまねぎも私です。エンドロールのクレジットが長くてたくさんの人が関わっていると思われますが、よく見ると同じ人が何度も出てくるんですよ(笑)。既に続編も書き上げていますが、プロデューサーのゴーサインが出るか…。まぁ、なるようになるでしょう。

◎ヴォイテク・ヴァヴチェク 1977年生まれ。映画監督、脚本家、アニメーター、アーティスト。賞に輝いた短編アニメーション「Headless」「Mouse」「Penguin」を監督し、また「George the Hedgehog」を共同監督した。2011年から2025年にかけてワルシャワのヒューマン・フィルム・アニメーション・スタジオのリーダーの一人として200本に及ぶコマーシャルを監督。脚本と監督を務めた長編「Diplodocus」は100カ国以上に劇場配給権が販売された。自身のグラフィック・ノベル「Mr.Lightbulb」はポーランドの漫画として初めて著名な出版社ファンタグラフィクスから出版された。ポーランド、ワルシャワ在住。

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◆「ディプロドクス〜恐竜とボク〜」

ポーランド/2024年/102分/監督:ヴォイテク・ヴァヴチェク

「ディプロドクス〜恐竜とボク〜」

 若い恐竜のディプロドクスがミステリアスな状況で失踪した両親を探しに旅にでるが、そこで彼は自分がマンガに描かれたキャラクターであることを知る。魔法が使えない魔法使いと科学を何も知らない科学者と一緒に、ディプロドクスは彼らの世界を救うために漫画の作者に立ち向かうことになる。アニメと実写を融合させた作品。