今回から新設された中編対象の「インディー・ボックス」を含めたコンペティション部門で審査委員長を務めるのが、フィリピンで活動するアニメーション監督、アヴィッド・リオンゴレンさん。昨日の開会式でもその陽気なキャラクターでさっそく会場を沸かせたご本人に、映画祭に対する思いや自国のアニメーション文化についてうかがった。(アニメライター・鈴木長月)
──新潟への来訪は初めてとのこと。まずはどんな印象を持たれました?
前夜(19日)に新幹線で着いたんだけど、実はそのときに妻がスマホを忘れてしまってね。ぼくの国だったら、「もう一生出合えない!」となるところなのに、連絡をしたらちゃんと駅で保管してくれていて、「奇跡だな」って思ったよ。ただ、スマホは今朝、無事に受け取ることができたけど、その途中で見つけた電器店で、欲しかった「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」のプラモデルを買おうとしたら、「限定品だから外国人には売れません」って言われちゃって。せっかくワクワクしながらレジまで持っていたのに、それはちょっと悲しかった。ぼくは転売なんてしたりしないのに(笑)。
──なんかすみません(汗)。そこはもうぜひ、“新潟の真心”笹だんごで気を取り直していただいて…。こうした映画祭が日本の地方都市の一つである、ここ新潟で開かれるということに対しては、どんな意義を感じていらっしゃいますか?
ぼく自身も「ドラゴンボールZ」や「超電磁マシーン ボルテスV」(※1)で育ってきたし、アニメはフィリピンでもすごく人気なんだけど、他の芸術作品に比べると、どこか“子ども向け”と言うか、一段低いレベルで見られてしまっているところがやっぱりあるんです。だからこそ、今回の映画祭のように街ぐるみでアニメーションに熱が注がれていて、しかもそれがちゃんと芸術として扱われているというのは、本当に心温まるし、すごいこと。審査員としてぼくもその一員になれることを心からうれしく思っています。
(※1…1977〜78年放送のロボットアニメ。東映制作。2023年には現地制作で実写ドラマ化もされるなど、フィリピンでは国民的な人気を誇る)
アヴィッド・リオンゴレン審査委員長
──ご自身としては、その活動を通して、母国であるフィリピンにおけるアニメーションの地位向上を図っていきたいという思いも?
それはもちろん。ことフィリピンでは、ぼくのようなアニメーション業界で働くフィルムメーカーはまだ少ない。今後は仲間たちと一緒にさらにその輪を広げていけたらいいな、とは思ってるよ。あとこれはフィリピンに限らず、欧米なんかでもそうだけど、アニメーションって、まだまだ過小評価されていると、ぼくは思う。一つのジャンルとしてくくるのではなく、あくまでも“作品”として見てほしい。その意味でも、アニメーションに特化したこうした映画祭があるのはすごく意義深いことなんじゃないかなって。
──24日の10時30分からは、「フィリピン初のクィア・スーパーヒロインのアニメ化にたどり着くまで」と題した講演(@日報ホール/入場無料)も予定されていますね。
いちばん人気のあるセレブリティがクィアだったりもするぐらい、フィリピンはもともとLGBTQにとても寛容な国(※2)ではあるんだけれど、一方で、同性婚をはじめとした彼らの権利を保護してくれるような法律の整備は遅れている。それらの制定が進むように、20年ぐらい前から運動も起きてはいるけど、タイのようにはまだなっていないというのが現実でもあるからね。ぼくの作品が、その一助になったらいいなとは思ってる。
(※2…世界経済フォーラムが発表した2025年版のジェンダーギャップ指数で、フィリピンは世界148カ国中、アジア圏トップの20位。日本は118位)
──では最後に、映画祭のこれからに望むことなどがありましたら。
なによりもまずは、映画祭自体がこれからも存続していくこと。それとやっぱり多種多様な作品をこれからもたくさん上映してくれることを期待したい。アニメーションキャンプの若者たちともいろいろ話す機会があったけど、フィリピンやモンゴル、それにアメリカから来て東京に住むんだっていう女の子までいて、本当に多様性を感じたしね。そういういろんな人たちが集まって、それぞれの視点でアニメーションについて語りあい、共有できる場所であり続けてくれたら、ぼくとしてもうれしいかな。
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リオンゴレン監督の2作品が23日に上映される。
◆【16:00】「サリーを救え!」上映+トーク(市民プラザ)
フィリピン・フランス/2016年/94分/監督:アヴィッド・リオンゴレン
「サリーを救え!」
漫画家を夢見る青年マーティは、親友でありガジェット発明家でもあるサリーに密かな恋心を抱いている。しかし、あらゆるラブストーリーにつきものなのが「厄介な障害」だ。サリーの両親は(文字通りの)モンスターであり、付き合っている彼氏は(文字通りの)最低男(ディック)。一方のマーティは、愛する人を残酷な世界から守り抜くという妄想だけは豊かなのだが、現実ではあらゆる事態に対して無力なのだった。
上映後にリオンゴレン監督のトークあり。
◆【19:00】「ニャンてこと!」上映(市民プラザ)
フィリピン/2020年/73分/監督:アヴィッド・リオンゴレン
「ニャンてこと!」
ショッピングモールで店員として働く雌猫、ニムファ。彼女の男は、清掃員として働くマッチョな雑種犬、ロジャーだ。そんなある日、ニムファはブルジョアなセレブ犬のイニゴと出会い、二人の間には情熱の火花が飛び散る! はたしてニムファとロジャーの愛は貫かれるのか!? それとも、イニゴのハイソな魅力が二人を無残に引き裂いてしまうのか……!?
◎鈴木長月(すずき・ちょうげつ)1979年生まれ。大阪府出身。東京都在住。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。プロ野球からサブカルチャーまで守備範囲は広く、アニメ専門誌『アニメージュ』(徳間書店)などにも寄稿する。妻が胎内市(旧中条町)出身で、新潟は自称「第2の故郷」。













