事故の再発防止策が必要なことは当然だ。しかし、平和教育の在り方とは別に考えるべきだ。教員らを萎縮させ、子どもたちが学ぶ機会を失うことにつながらないか、懸念する。
沖縄県名護市辺野古沖で船2隻が転覆し、研修旅行中だった京都府の同志社国際高の女子生徒ら2人が亡くなった。事故を受け、文部科学省は高校を運営する学校法人に是正を指導した。
米軍普天間飛行場の辺野古移設に抗議する船に生徒を乗せ、特定の見方に偏った教育をしたとして政治的活動を禁じる教育基本法に反すると判断した。
文科省が政治的中立性を巡って教育基本法違反を認定したのは初めてのことだ。
学校法人への文科省の調査では、教員が事前に下見をせず、船にも同乗しなかった点は重大な判断ミスだとした。
生徒の乗った船は事業登録されておらず、国は海上運送法違反容疑で、死亡した船長を刑事告発した。安全確認が不十分だった学校の責任は重い。事故の原因究明が急がれる。
文科省はさらに、事前学習で移設工事に対する多様な見解について十分に学習していなかったことや、2015~18年の旅行のしおりで、座り込みの反対運動への参加を呼びかけた点を問題視した。
学校側は「年間を通じ基地問題以外も扱い、政治的中立性を確保した」と主張したが、中立性を欠いたと判断された。
自民党は原因究明などを求めた上で「平和教育の名の下に偏った教育が行われることはあってはならない」とする提言を出した。
教育基本法が定める中立性は、政治が教育現場に介入するのを防ぐための規定である。
米軍基地を巡る反対運動に神経をとがらせる自民保守派の圧力や政権への忖度(そんたく)が文科省の判断の背景にあるとすれば、教育現場への政治介入になりかねない。慎重に判断すべきで、文科省は法の趣旨をはき違えてはならない。
国は事故後、校外学習での安全確保の徹底に加え、政治的中立を求めた教育基本法に言及して教育活動が適切に計画されているか確認するよう求める通知を各教育委員会などに出した。
また、全国の学校を対象に近く、教育活動の実施状況が適切かどうか調査する方針だ。安全確保策だけではなく、平和教育の内容にまで調査が及べば教育現場はプレッシャーを感じるだろう。
各地の学校では、戦跡の見学や戦争体験者の出前授業などが主に行われ、安全リスクを伴うものは少ない。それでも、教員に不安が広がり、平和教育そのものが後退する懸念は拭えない。
子どもたちが戦争の悲惨さと平和の尊さを学ぶ教育を受ける機会は確保されねばならない。
