絵本「からすのパンやさん」は出版から半世紀を超えて愛される。圧巻なのは、ユニークな形のパンがずらりと並ぶ見開きページだ。パンダパンにひこうきパン、ブラウン管式の厚型テレビを模したパンは時代を映していて面白い
▼作者のかこさとしさんは100年前の今日生まれた。10代は戦時に当たる。親孝行のためにと航空士官を目指したが、近視で士官学校を受験できなかった経験を持つ
▼大学1年で敗戦を迎えると、出征した友人たちは死んでいた。無謀な戦争と知らず、軍人を志した自身を恥じた。何事もなかったかのように戦後を楽しむ大人にも失望した
▼自分のような過ちをさせたくないと次世代に希望を託し、働きながら子どもと接するボランティアに打ち込んだ。その時に描いた紙芝居が編集者の目にとまり、絵本作家として歩みだした
▼ぬきあしさしあししのびあしで遠足に行く「どろぼうがっこう」で子どもたちを笑わせて、専門家に学び自然科学を精緻に描いた科学絵本シリーズで知識を届けた。生きる喜びと正しい判断力を持った子どもを育てようと、2018年に他界するまで約600の作品を手がけた
▼その一冊「こどものとうひょう おとなのせんきょ」の後書きに、かこさんは本に込めた思いを記す。「少数でもすぐれた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な『民主主義の真髄』をとりもどしたい」。生誕100年の今、じっくり読みたい本がたくさんある。
