怒声や不機嫌な態度で日々職場を萎縮させる上司に、他人の気持ちも考えろよと説諭されたとする。正論でも、あなたに言われたくないと思うだろう。成果文書を採択できずに閉幕した核拡散防止条約(NPT)の再検討会議のニュースに、そんな例えを思い浮かべる

▼米国とイランの対立が合意を阻んだ。米国はイランの核開発を批判したが、国際法違反が疑われるイラン攻撃を仕掛けた張本人である。米ロ間で唯一残っていた核軍縮合意も2月にあっさり失効させたばかり。イランに反論の余地を与えてしまった

▼米英仏中ロの5カ国に核兵器保有を認め、その他の国には認めないNPT体制は、そもそも不平等な構造だ。保有国である大国の誠実な核軍縮が前提なのだが、逆行するような現状は説明がつかない

▼NPTには二つの顔があるとする長崎大学核兵器廃絶研究センターの指摘に納得する。「核廃絶に向けた軍備管理条約」であると同時に「核保有国と核の傘に依存する国に役立つ安全保障条約」でもあるという。現実には後者の色合いが強まっている

▼NPT体制は妥協の産物といえなくもないが、各国はこの枠組みで、どうにかこうにか半世紀を越えて秩序を保ってきた。矛盾や憂いは増しても、崩壊させてしまうわけにはいかない

▼冒頭のような身勝手な上司がいる職場でも、どうしのいでいくかを考えたい。悲観せず、ひるまず、根気強く、知恵を絞る。立場は弱くても志を共にする仲間同士の結束がなにより力になる。