自分が産んだ卵を、よその巣で育ててもらう鳥について、動物学者の松原始(はじめ)さんが著書に書いていた。ダチョウやコムクドリは同じ種の鳥の巣に産み付けるが、カッコウはオオヨシキリなど別種の鳥の巣にこっそり紛れ込ませる

▼子孫を残す可能性を高めるための行為とされる。カッコウはとにかく産卵に専念するため、子育てもしないという。だから巣も作らず別種の鳥に委ねる。リスクはあっても最善の策ということか

▼フラミンゴが大集団で繁殖するのは、外敵が手を出しにくく、襲われても生き残る確率が高いから。ツバメのオスがよそのペアのひなを殺すことがあるのは、親鳥のメスを再び発情させ、自分との交尾を促すため。鳥たちも必死なのだ

▼DNAに刻まれた繁殖の本能に神秘すら感じつつ、この週末に石川県能登地域で行われるトキ放鳥に期待する。地震被災地を勇気づける存在として、元気に仲間たちを増やしてくれよ。そう願う

▼かつてトキが生息した能登で、最後の1羽が捕獲されたのは1970年だった。人工繁殖に望みをかけ佐渡トキ保護センターに移送されたが、翌年に死ぬ。能登では「佐渡に送るべきじゃなかった」と悔やむ声もあったという

▼その個体は捕獲されるまで、春先になるとたった1羽でもせっせと繁殖準備をしていた。いじらしい姿に地元の保護会員は号泣した(小林照幸「朱鷺の遺言」)。半世紀を越えて、今度は佐渡から能登へ命がリレーされる。たくましくずぶとく生き抜いてほしい。