魚沼の地を訪れると桜が満開を迎えていた。1月後半からの大雪にもかかわらず思いのほか雪消えが早く、開花も早まった。雪解け水をたっぷりと吸って咲いた淡いピンクが、ひときわ澄んで見えたのは気のせいか
▼南魚沼市の坂戸山麓にある銭淵公園は、花見の市民らが陽春を満喫していた。多雪の冬を越えてこそ味わえる喜びを、分かち合っているように見えた。脇を流れる魚野川に沿って、桜並木のパノラマが青空に映えていた
▼早い雪解けは山菜の芽吹きも早めた。農産物の直売所をのぞくと、収穫者の名前を記した春の味がずらりと並んでいた。まだ時季が早いと期待せずに売り場を探すと、なんとお目当てのものがあった。小袋に入った「木の芽」を手にした。アケビの新芽である
▼夜が待ちきれなかった。鍋を沸かし、さっと湯がく。直径が1、2ミリで根元側が紫がかった新芽は、たちまち鮮やかな緑色に変わる。ほどよく切って皿に盛る。ウズラの卵やかつお節をあわせるのも定番だが、しょうゆを垂らすだけで十分だ
▼ごそっとつまみ、シャキシャキの歯ごたえを確かめる。苦みと同居する甘み。思わず天を仰ぐ。大食いするものでもない。限られたこの時季にだけ堪能し、また来春を待つ。幸福は小袋に入っているくらいがちょうどいい
▼開高健や堀口大学ら愛食した著名人を持ち出すまでもなく、静かに誇りたい郷土の恵みに感謝する。各地の山里でクマの出没が報告されている。山菜採りをする際は万全の安全対策を。
