紳士が傘を持たぬ土地柄で、公然と周囲にあらがった。18世紀の英国商人ジョナス・ハンウェーは傘を差してロンドンの街を歩き、周囲を驚かせたと伝わる

▼傘の歴史をまとめた「アンブレラ 傘の文化史」に彼の記述がある。「雨が降ると、小さな雨傘が彼の顔とかつらを守った。(中略)彼が三十年近く使い続けた後、ようやく一般に使われるようになった」

▼当時の英国では、紳士は雨が降れば馬車を使った。傘を使うのは馬車に乗るお金がない者とみなされた。慈善事業家でもあったハンウェーは中傷や嘲笑にもめげず、傘を根付かせた

▼アンブレラの語源は陰(影)を指すラテン語umbraである。日傘に由来するとの説もあるが、傘と聞いてまず雨傘を連想するのは梅雨のある国に生まれ育ったせいかもしれぬ。天気予報でおなじみの「☂」マークも海外に行けば雲と雨粒などで示す国がある。傘を巡る文化の違いが垣間見えて興味深い

▼梅雨入りの日、道行く人が一斉に傘を差す様子を一昔前の新聞は「傘の花が咲いた」と表現した。最近では入梅の前に一足早く日傘の花が咲く。容赦なく照りつける日差しには刺すような鋭さがある。わが身を守る陰が欲しくなる

▼ハンウェーほどの苦労をせずとも、気候の急激な変化が日傘の存在感を高めている。男性の日傘姿も珍しくなくなった。雨傘と日傘を上手に使い分けながらうっとうしい時季を乗り切りたい。聞けば、雨と直射日光の両方を防ぐ晴雨兼用傘が売れているそうだ。